山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 後より来る君におくる


 
子ども等よ
           しらが
いまは頭も白髪となり
                        からだ
骨が皮をかぶつたやうな体躯を
 
漸く杖でささえて
 
消えかかつた火のやうに生きてゐるお前達のお爺さんを見な
 
あれでも昔は若くつて大胆で
 
君等のお父さん達が
 
いま鍬鎌を振りまはして田圃や畑でたたかつてゐるやうに
 や  だ  ま
弓矢銃丸の間をくぐりむぐつて
 
いさましいはたらきをしたもんだ
 
子ども等よ
 
鉄のやうに頑丈であれ
 
やがて君達のお父さんがお爺さんのやうになる時
                              おとな
其時、君等はお父さんのやうな大人になるのだ
 
此の時代と世界とを
 
そして立派にうけ継ぐのだ
 
その君達のことを思へば
 
此の胸はうれしさで一ぱいになるぞ
 
おお勇敢な小獅子よ
 
お爺さんよりお父さんより
 
君等はもつとどんなに強くなることか
 
こつちをみろ



  自分の此詩集が日光の中に出るやうになつたのは親友早坂掬紫、
  平井邦二郎、前田夕暮等の友情によつてであることを大なる感謝
  をもつてここに記しておく。更にこれらの名の中に自分は自分の妻
  ふじ子の名をもかき加へなければならない。