山村暮鳥
「雲」


 
 ある時


 
まあ、まあ
 
どこまで深い靄だらう
 
そこにもここにも
 
木が人のやうに立つてゐる
 
あたまのてつぺんでは
 
艪の音がしてゐる
 
ぎいい、ぎいい
 
そうかとおもつてきいてゐると
ひばり
雲雀一家が一つさへづつてゐる
 
これでいいのか
 
春だとはいへ
 
ああ、すこし幸福すぎて
 
寂しいやうな気がする