伊東静雄「反響」
わが家はいよいよ小さし


    七月二日・初蝉


 
 あけがた
 
 眠からさめて
 
 初蝉をきく
 
 はじめ
 
 地蟲かときいてゐたが
 
 やはり蝉であつた
 
 思ひかけず
 
 六つになる女の子も
 
 その子のははも
 
 目さめゐて
 
 おなじやうに
 
 それを聞いてゐるので
 
 あつた
 
 軒端のそらが
 
 ひやひやと見えた
 
 何かかれらに
 
 言つてやりたかつたが
 
 だまつてゐた



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