伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    自然に、充分自然に

                 もが
 草むらに子供は蜿く小鳥を見つけた。
 
 子供はのがしはしなかつた。
 
 けれど何か瀕死に傷ついた小鳥の方でも
 
 はげしくその手の指に噛みついた。
 

 
 子供はハツトその愛撫を裏切られて
 
 小鳥を力まかせに投げつけた。
                     くう
 小鳥は奇妙につよく空を蹴り
 
 飜り 自然にかたへの枝をえらんだ。
 

 
 自然に? 左樣 充分自然に!
 
 ――やがて子供は見たのであつた、
 こいし
 礫のやうにそれが地上に落ちるのを。
 
 そこに小鳥はらくらくと仰けにね轉んだ。




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