伊東静雄「反響」
凝視と陶醉


    沫雪

                                       あわゆき
 冬は過ぎぬ 冬は過ぎぬ。匂ひやかなる沫雪の
                           まがき かれふ
 今朝わが庭にふりつみぬ。籬 枯生 はた菜園のうへに
 
 そは早き春の花よりもあたたかし。
 

 
 さなり やがてまた野いばらは野に咲き滿たむ。
              きぐさ
 さまざまなる木草の花は咲きつがむ ああ その
                                             いづこ
 まつたきひかりの日にわが往きてうたはむは何處の野べ。
 

 
 ……いな いな …… 耳傾けよ。
                  きそ
 はや庭をめぐりて競ひおつる樹々のしづくの
                            なれ
 雪解けのせはしき歌はいま汝をぞうたふ。




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