北原白秋
 

「水墨集」より

  
 雪に立つ竹




  きよ
 聖らかな白い一面の雪、その雪にも
 
 平らな幅のかげりがある。
  かす
 幽かな緑とも、また、紫ともつかぬ、
                  あか
 なんたるつめたい明りか。
 

  たけ           めん
 竹はその雪の面にたち、
 
 ひとつひとつ立つ。
 
 まつすぐなそれらの幹、
  あら
 露はな間隔の透かし画。
 

 
 実にこまかな枯葉であるが、
          あした
 それにも明日の芽立がある。
 
 影する雲の藍ねずみにも
                プラチナ
 ああ、豆ほどの白金の太陽。
 

                    しづ
 かうした午後にこそ閑けさはあれ、
 
 光と影とのいい調和が、
  しめ
 湿つて、さうして安らかな慰めが、
 
 おのづからな早春の息づかひが。
 

  きよ
 聖らかな白い一面の雪、その雪にも
 
 平らな幅のかげりがある。
 
 雪に立つひとつひとつの竹、
 
 それにも緑の反射がある。



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