北原白秋
 

「水墨集」より

  
 竹林の七賢




 
 さても黄色い円月である。
              ちくりん
 さても閑雅な竹林である。
  ななたり
 七人の賢い人、風月の友、
                 おももち
 この幽人たちの面持、姿、
 
 その清らかさはかぎりもないが、
 
 あまりに世の中からかけ離れた、
 
 それゆゑの月の出が、
        まじか
 明るい間近な光である。
 
 ああ、いま、せせらぐものに
 
 何かのたよりがきこえさうだ。
 
 さてもこの良夜に
         な
 言葉を失くした
              たましひ
 ひとつひとつの霊である。
 
 近いやうでもまた
 
 遠い銀と紫の世界の中である。



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