大手拓次
>『藍色の蟇』

球形の鬼

  
  球形の鬼


 
 あつまるものをよせあつめ、
 
 ぐわうぐわうと鳴るひとつの箱のなかに、
          め              このよ  おに
 やうやく眼をあきかけた此世の鬼は
           かは                          いき
 うすいあま皮に包まれたままでわづかに息をふいてゐる。
  かうぐ                きよまう  えうえん
 香具をもたらしてゆく虚妄の妖艶、
               ぎん  はくらふ   とうか
 さんさんと鳴る銀と白蝋の燈架のうへのいのちは、
 
 ひとしく手をたたいて消えんことをのぞんでゐる。
 
 みよ、みよ、
                  あか           おほあし
 世界をおしかくす赤いふくらんだ大足は
 ゆふやけ
 夕焼のごとく影をあらはさうとする。
       ちから やみ          きうけい  おに
 ああ、力と闇とに満ちた球形の鬼よ、
                たいき
 その鳴りひびく胎期の長くあれ、長くあれ。