大手拓次
『藍色の蟇』

湿気の子馬

  
  妬心の花嫁


 
 このこころ、
                  つの
 つばさのはえた、角の生えたわたしの心は、
            をんねつ きようしやう
 かぎりなくも温熱の胸牆をもとめて、
 
 ひたはしりにまよなかの闇をかける。
              ほうらつ
 をんなたちの放埓はこの右の手のかがみにうつり、
 
 また疾走する吐息のかをりはこの左の手のつるぎをふるはせる。
 
 妖気の美僧はもすそをひいてことばをなげき、
 
 うらうらとして銀鈴の魔をそよがせる。
 
 ことなれる二つの性は大地のみごもりとなつて、
        らうじゆ
 谷間に老樹をうみ、
                     ふたを
 野や丘にはひあるく二尾の蛇をうむ。