湿気の子馬
夜会
わたしの腹のなかでいま夜会がある。
壁にかかる黄色と樺とのカアテンをしぼつて、
なのなかをのぞいてみよう。
あ る じやく
まづ第一におほきな眼をむきだして今宵の主人役をつとめてゐるのは焦茶色の年とつた蛇である。
そのわきに気のきいた接待ぶりをしめしてゐるのは白毛の猿である、
ひらめき
（猿の眼からは火花のやうな真赤な閃光がちらちら走る）
それから、古びた頭巾をかぶつた片目の法師、
秋のささやきのやうな声をたてて泡をふく白い髯をはやした蟹、
きん
半月の影をさびしくあびて、ひとりつぶやいてゐる金の眼のふくろふ、
わにざめ
ゐざりながらだんだんこつちへやつてくるのは足をきられた鰐鮫だ。
するとそよそよとさわだつて、くらいなかからせりあがるのはうす色の幽霊である。
幽霊はかろく会釈して裾をひくとあやしい楽のねがする。
かたりかたりといふ扉のおと、
ちひさな蛙ははねこみ、
とかげ
すばしつこい蜥蜴はちよろりとはひる。
またしても、ぼさぼさといふ音がして、
いたち
鼬めが尻尾でおとづれたのである。
やがて車のかすれがきこえて、
しづかに降りたつてきたのは、あをじろい顔の少女である、
この少女こそ今宵の正客である。
わび
少女はくちをひらいて、おそなはつた詫をいふ。
よる
その馬車の馬のいななきが霧をよんで、ますます夜はくらくなる。
さて何がはじまるのであらう。
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