大手拓次
『藍色の蟇』

黄色い帽子の蛇

  
  あをざめた僧形の薔薇の花


 
 もえあがるやうにあでやかなほこりをつつみ、
 
 うつうつとしてあゆみ、
 
 うつうつとしてわらつてゐた
 そうぎやう
 僧形のばらの花、
 
 女の肌にながれる乳色のかげのやうに
 
 うづくまり たたずみ うろうろとして、
 
 とかげの尾のなるひびきにもにて、
 
 おそろしいなまめきをひらめかしてうかがひよる。
 
 すべてしろいもののなかに
                そうぎやう
 かくれふしてゆく僧形のばらの花、
 
 ただれる憂欝、
 
 くされ とけてながれる悩乱の花束、
 
 美貌の情欲、
                 えいち
 くろぐろとけむる叡智の犬、
 
 わたしの両手はくさりにつながれ、
 
 ほそいうめきをたててゐる。
 
 わたしのまへをとほるのは、
                    そうぎやう
 うつくしくあをざめた僧形のばらの花、
 
 ひかりもなく つやもなく もくもくとして、
 
 とほりすぎるあをざめたばらの花。
 
 わたしのふたつの手は
 
 くさりとともにさらさらと鳴つてゐる。