立原道造「優しき歌 I


 
薊の花のすきな子に

 
 II 虹の輪


           かを
あたたかい香りがみちて 空から
                           てのひら
花を播き散らす少女の天使の掌が
 
雲のやうにやはらかに 覗いてゐた
             もた
おまへは僕に凭れかかりうつとりとそれを眺めてゐた

 
夜が来ても 小鳥がうたひ 朝が来れば
くさむら
 叢 に露の雫が光つて見えた――真珠や
               はがね
滑らかな小石の刃金の叢に ふたりは
 
やさしい樹木のやうに腕をからませ をののいてゐた

 
吹きすぎる風の ほほゑみに 撫でて行く
 
朝のしめつたその風の……さうして
ひとひ
一日が明けて行つた 暮れて行つた

 
おまへの瞳は僕の瞳をうつし そのなかに
 
もつと遠くの深い空や昼でも見える星のちらつきが
 
こころよく こよない調べを奏でくりかへしてゐた