立原道造「優しき歌 I


あざみ
薊の花のすきな子に

   やす
 I 憩らひ
    

――薊のすきな子に――



 
風は 或るとき流れて行った
 
絵のやうな うすい緑のなかを、
 
ひとつのたつたひとつの人の言葉を
 
はこんで行くと 人は誰でもうけとつた

 
ありがたうと ほほゑみながら。
 
開きかけた花のあひだに
 
色をかへない青い空に
 
鐘の歌に溢れ 風は澄んでゐた、

 
気づかはしげな恥らひが、
 
そのまはりを かろい翼で
 
にほひながら 羽ばたいてゐた……

 
何もかも あやまちはなかつた
      かりうど
みな 猟人も盗人もゐなかつた
 
ひろい風と光の万物の世界であつた。