立原道造「暁と夕の詩」


  
 I 或る風に寄せて


 
おまへのことでいつぱいだつた 西風よ
 
たるんだ唄のうたひやまない 雨の昼に
        まど
とざした窗のうすあかりに
 
さびしい思ひを噛みながら

                          ふる
おぼえてゐた おののきも 顫へも
 
あれは見知らないものたちだ……
 
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て
 
あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる

 
おまへのうたつた とほい調べだ――
 
誰がそれを引き出すのだらう 誰が
 
それを忘れるのだらう……さうして

 
夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に
 
そそがれて来るうすやみのなかに
 
おまへは 西風よ みんななくしてしまつた と