立原道造「暁と夕の詩」


     せう たん し
 III 小譚詩


 
一人はあかりをつけることが出来た
 
そのそばで 本をよむのは別の人だつた
 
しづかな部屋だから 低い声が
 
それが隅の方にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)

 
一人はあかりを消すことが出来た
 
そのそばで 眠るのは別の人だつた
 
糸紡ぎの女が子守の唄をうたつてきかせた
 
それが窓の外にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)

 
幾夜も幾夜もおんなじやうに過ぎて行つた……
 
風が叫んで 塔の上で 雄鶏が知らせた
    ジアツク 
――兵士は旗を持て 驢馬は鈴を掻き鳴らせ!

 
それから 朝が来た ほんたうの朝が来た
 
また夜が来た また あたらしい夜が来た
 
その部屋は からつぽに のこされたままだつた