立原道造「暁と夕の詩」


  
 IV 眠りの誘ひ


 
おやすみ やさしい顔した娘たち
 
おやすみ やはらかな黒い髪を編んで
                   くるみいろ
おまへらの枕もとに胡桃色にともされた燭台のまはりには
 
快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪)

 
私はいつまでもうたつてゐてあげよう
 
私はくらい窓の外に さうして窓のうちに
 
それから 眠りのうちに おまへらの夢のおくに
 
それから くりかへしくりかへして うたつてゐてあげよう

 
ともし火のやうに
 
風のやうに 星のやうに
 
私の声はひとふしにあちらこちらと……

                  りんご
するとおまへらは 林檎の白い花が咲き
 
ちいさい緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを
 
短い間に 眠りながら 見たりするであらう