上田敏「海潮音」

  さぎ
 鷺の歌

  エミイル・ヴェルハアレン




            こがねこもりぬ
 ほのぐらき黄金隠沼、
 かうほね
 骨蓬の白くさけるに、
 
 静かなる鷺の羽風は
 おもむろ
 徐 に影を落しぬ。
 

      おも      ただよ
 水の面に影は漂ひ、
 
 広ごりて、ころもに似たり。
  あめ            かよひぢ
 天なるや、鳥の通路、
 
 羽ばたきの音もたえだえ。
 

 すなどり      さか
 漁子のいと賢しらに
 
 清らなる網をうてども、
  そらか     く
 空翔ける奇しき翼の
 
 おとなひをゆめだにしらず。
 

                 よ
 また知らず日に夜をつぎて
  みぞ     どろつち
 溝のうち泥土の底
 
 鬱憂の網に待つもの
 ひさかた
 久方の光に飛ぶを。



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