上田敏「海潮音」

  といき
 嗟嘆

ステファンヌ・マラルメ




              いもと           おもひ
 静かなるわが妹、君見れば、想すゞろぐ。
  くちばいろ  おそあき            ひたひ
 朽葉色に晩秋の夢深き君が額に、
 てんにん ひとみ
 天人の瞳なす空色の君がまなこに、
                  こけふ     はなぞの
 憧るゝわが胸は、苔古りし花苑の奥、
 あはじろ  ふきあげ
 淡白き吹上の水のごと、空へ走りぬ。
 

           しぐれづき
 その空は時雨月、清らなる色に曇りて、
  をりふし                        うつ
 時節のきはみなき鬱憂は池に映ろひ
  らくよう   うすぎ    わづらひ
 落葉の薄黄なる憂悶を風の散らせば、
                         ひ     あや
 いざよひの池水に、いと冷やき綾は乱れて、
            くちなし
 ながながし梔子の光さす入日たゆたふ。



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