竹久夢二「たそやあんど」

     


                たく  たれ  おきわす           ぬし
 あるカフエの卓に誰が置忘れたのか、主のない 
    さつ                       とりあげ      み        えん
 一冊のノートがあつたのを取上げて見ると、鉛 
   ぴつ                         しんぱんうきよ
 筆のむだがき、はじめに「新版浮世ぶし」とし 
                     いまどき  わかもの  ふで
 てある。いづれは今時の若者が筆のすさびであ 
            しんたい し     み                     は うた
 らうか、新体詩かと見れどさうでもなし、端唄 
   おぼえがき             むかし               おも
 の覚書かとおもへど昔あつたものとも思へず、 
           しんぱんうきよ
 やはり「新版浮世ぶし」といふのであらう。
  ぬし       こ    は    そ
 主のない娘の歯を染めさせたといふのでなし、 
           かり       つく     ぬし   な        で
 こゝにお借して、作つた主の名のつて出るのを 
   ま
 待つことにした。



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