・緒言


 以前、こちらのテキストで秋葉原を徘徊する男性オタク達のファッションについて報告してみた。男性オタクの見た目を中心に色々書いてみたわけだが、書いていてふと思った事がある。それは、「類似分野の女性オタク達はどんな様子なのだろう?」という疑問だ。2004年現在、とらのあな秋葉原店の撤退と池袋存続に代表されるように、東京エリアでは“男性向けの秋葉原、女性向けの池袋”という風に、性別による棲み分けが明確になってきている。このため秋葉原だけを観察していては女性オタクについて調査する事が出来ないのが実状だ。

 そこで今回、秋葉原を離れて池袋同人誌街(サンシャイン60ビル周辺)に潜入し、初調査を試みたので報告する。今回の調査はシロクマにとって初の女性オタクのみを対象とした調査であり、準備不足・調査不足の感は否めない点はご了承願いたい。また、私だけの考察では片手落ちと考えて、今回は特別に一女史(女性の漫画/アニメオタクについて造詣が深い。同人歴10年)のコメントもこちらに掲載した。物好きな人は、どうぞ。


・目的

 池袋同人誌ショップ・アニメグッズショップに出入りしている女性漫画オタク・アニメオタク達の実態について調査し、control群(お台場の女性群・京浜東北線車内の女性群)との相違点を比較する。また、前回秋葉原調査における男性のファッションと今回の池袋調査における女性のファッションの相違点・相似点について比較検討する。


・方法

 2004年6/12(土)において、各地点でみられる女性の髪にカラーが入っている割合を抽出した。観察地点と観察時間は以下の通り。

1.池袋アニメ・漫画関連ショップA店舗、一般向けブース (PM3:00頃)
2.池袋同人誌関連ショップB店舗、女性向け18禁ブース (PM3:30頃)
3.京浜東北線車内、五号車第三ドアに入ってくる全女性の抽出。
  (PM4:00〜4:20頃、池袋→東京の各駅で乗車した女性を全抽出)
4.東京お台場駅ホテル前広場の女性全抽出 (PM5:00頃)

 上記4地点において、範囲内の女性を年齢を問わずに観察し、髪に何らかのカラーを入れている女性と全くカラーを入れていない女性を全カウントした。男性は全員カウントから除外し、脱色程度のいい加減な女性もカラーとしてカウントし、完全に素の黒髪のみを“カラーを入れていない”とカウントした。

 なお、今回の調査では(あまり多くないが圧倒的に綺麗な事の多い)“ものすごく金のかかった、恐ろしく美しく染めてある”黒髪や、ビジュアル系でしばしばみられる赤・紫・青などのカラーについては一人もみられなかった。このため、これらの曖昧な標本は含まれていないことを断っておく。




・結果

1.各観測地点と比較した、女性の髪カラー率の違い

 まずは、具体的な数字から見てもらう事にしよう。以下の表をご覧頂きたい。各観察ポイントにおける女性達の、髪にカラーが入っている割合を抽出した結果がこれである。


総数カラーカラー率備考
池袋同人店A291137.9%
池袋同人店B531935.8%
京浜東北線車内221986.4%黒髪は中年×2、老婆×1
お台場ホテル前191684.2%黒髪は中年×2、老婆×1
(参)秋葉原エロ
同人店内男性
2114.8% 2004. 5/1 PM4:00
酷い見た目の多い時間


 やはりというか何というか、池袋同人誌ショップ内の女性達は、街の女性達と比べて際だって非カラー率が高いと言えそうだ。池袋同人誌ショップ内の女性は比較的平均年齢が低い(中学生〜20代前半が中核を占める)ため、年齢的に不均一な集団という点は考慮されて然るべきだろう。しかし、京浜東北線内やお台場で見かけた十代〜二十代の女性はすべからく髪にカラーを入れていたし、もっと年若い幼女のたぐいすら全員カラーを入れていた。また、今私がこのテキストを打っている新幹線内を見渡しても、同年代の女性達は全員カラーを入れていることに気づく。やはり池袋の同人誌ショップ内の女性は、際だって非カラー率の高い、特異な集団と結論づけざるを得ない

 もちろん髪が黒いからと言って、彼女達が“最近それなりに台頭してきている綺麗な黒のカラー”を入れているわけではない。そのような黒髪は人工的なカラーが目立つし、そのような黒髪の女性はその他のファッション(服飾、アクセサリー、靴、そしてそれらの統合度)などでアベレージを上回っている場合が多い(そうでない事もあるけどね)。このような黒髪の存在があまりに多いと今回の調査は成り立たないと思い、私はお洒落なカラー黒髪の存在には神経を尖らせていたが、幸い(!?)にして一度もお目にかかる事は無かった。十中八九程度の信憑性で、標本中の黒髪女性達は髪にカラーを入れていないと考えてよさそうである。

 『髪にカラーを入れる』という技法は、(お洒落黒も含めて)2004年現在、日本の女性ファッションにおいて殆ど避けて通れない手法だと考えられる――京浜東北線車内の観察や、お台場に集う女性達を見れば、このことははっきりと理解することが出来る。男性はどうかは置いておいて、女性に関する限りはカラーを用いる事はむしろデフォルトであり陳腐であり、当たり前の事となっていると考える。しかし池袋の同人ショップ内では、その必須条件とも言うべきカラーの存在が欠落している女性が極めて多かったわけである。もちろん、意識して敢えて黒をチョイスしている可能性は否定できないが、目を引くような、綺麗な黒髪の女性はみられなかった。この事実は、女性のアニメ/漫画オタク達のファッションスキルを考えるうえで間接的ながらも示唆的だと私は考える。後述の考察をご参照頂きたい。


2.年齢の特徴・年齢ごとの特徴

 次に、池袋同人ショップ内女性客の、年齢的な特徴について記述する。今回観察した三つの店舗では、比較的若年の女性客が多くみられた。なかには制服姿の女子高生・女子中学生もチラホラみられ、もしかすると修学旅行の自由時間に来ている地方学生も混じっていたのかもしれない。彼女たちの平均年齢はかなり低く、おそらく10代後半〜20代前半あたりがアベレージと推測される。それぐらい若い年齢の女性客が多かったのだ。とはいえ、二十代前半とおぼしき女性客も散見され、三十代に届かんとする(或いはそれを上回った)高齢女性オタクも時々みられた。そして、これは特筆すべきだろうが、秋葉原男性では比較的多くみられた二十代中頃〜二十代後半とおぼしき年齢層は、池袋女性では際だって少なかった。池袋の同人ショップ内の女性オタク達は、秋葉原の男性オタク達と異なる人口ピラミッドを示しているようだ。

 年齢とファッションを見比べると、二十代前半とおぼしき集団が最も髪のカラー率が高く、比較的お金のかかっていそうなサンダル・バッグ・シャツを着用している割合が高かった。とはいえ、お台場や京浜東北線内で見かけたcontrol群の同年代女性と比べると資本投下・技術投下の不足は否めず、“きっと安そうなワンピース”の割合や“明らかに造りの粗雑なスカート”“お洒落とは全くかけ離れたデニムパンツ”が多くみられた。(これらの服装には、女性オタクである妹から別の見解が得られています。反省)これよりも若い十代後半の集団ではさらに髪のカラー率は下がり、服装もいっそうチープなものが増加した。なかにはかなりみすぼらしい格好の女性客も少数だが混じっていた。

 反対に、三十代前後とおぼしき比較的高齢の女性オタク集団においても髪のカラー率は下がり、服装的にも年齢の主流から大きく逸脱したものばかりが目についた。具体的には、“およそ30代前半らしからぬおばちゃん臭い格好”ばかりがみられ、(本来ならば同年代で達成していて然るべき)衰えを洗練によって補うような高度のファッションスキルとファッションアイテムは全くといっていいほど観察されなかった。むしろ二十代前半の女性客達のほうが、世間ズレした格好をしている割合がまだ低かった。


3.池袋同人ショップの男女比

 池袋の同人ショップ・アニメグッズショップ内では、明らかに女性客の比率が高かった。池袋のショップ群は秋葉原の同人ショップとは異なり、女性客用のレパートリーを取りそろえているのだからこれは当然のことなのだが、男女比はおよそ1:9〜2:8程度と推測された。そしてこれまた当たり前のことだが、女性向け十八禁同人誌を販売しているブースでは男性客は私以外は全くみられず、女性客しかいなかった。


4.秋葉原の男性向け類似ショップとの相違と相似

 最後に、5/1に観察された秋葉原の同人ショップ内と比較した相違点・相似点について報告する。同人誌や十八禁ホモゲームに食らいついて品定めする女性客達の熱心さは、秋葉原でみられた男性客のそれと比較しても全く見劣りするものではなかった。彼女たちは肩掛け鞄やリュックの代わりに、大きくはちきれんばかりのトートバッグ(もちろん実用重視)を持ち歩き、好みの本を探すその目は大きく見開かれ、レジには長蛇の列をつくっていた。その熱意は男性オタク達の必死さと全くかわりなく、なかには自分の周りに大量の同人誌を散らかして遠慮なく品定めを続ける強者も混じっていた。彼女らの同人誌に対する熱意が男性オタク達のそれとなんら変わるところがない事が確認できた。また、髪にカラーを入れている率は、秋葉原の某同人ショップ18禁コーナーにおいて男性21人中1人だったのに対して、池袋の某同人ショップ18禁コーナーの女性は53人中19人が髪にカラーを入れているという割合だったが、これは男女によるカラーに対する認識の違いや普及率の違い等々を差し引いて考えれば妥当なものかもしれない。


5.珍しいもの

 このほか、統計的には無意味だが余所ではなかなか見かけ難いものを見かけたので報告する。私が池袋を撤退する直前、ピンクハウスを身につけたオタク女性を見かけることが出来たのである。彼女達はそれはもう厚化粧で、うだるような暑さのなか、剥がれた化粧の筋を何本も顔に浮かべながら移動していた。個人の嗜好によって女性の顔の良し悪しなど様々だが、美人の部類に入ることがあまり無さそうな顔立ちだったと記憶している。否、化粧や厚さの影響などが、私の視覚にバイアスを提供したのかもしれない..。

 ピンクハウスというチョイスは、完璧な化粧・完璧な容姿・やや幼めのルックスなどなどを要求する、非情なまでに高難度の代物と考えて間違いない筈……なのだが、どうやらそんな事は彼女達にはどうでも良いことのように感じられた。ピンクハウスやゴシックロリータに本来要求される、様々な高レベルのハードルを無視した彼女達がどのような「ピンハ女」「ゴスロリ女」に見えたのか?これについては、皆さんのご想像に任せることとする。




 ・考察

 まず、今回の調査で明らかになった特徴についてもう一度まとめてみよう。池袋の女性オタク達の実地調査で明らかと思われたのは、

1.池袋の女性客達はcontrol群(京浜東北線車内女性・お台場女性)に比較して髪にカラーを入れている率が目立って低かった

2.女性客の人口ピラミッドは10代後半〜20代前半に集中しており、男性のそれと違って20代後半以降の年代は際だって少ない。また、10代よりは20代のほうが(カラー率も含めた)ファッションへの投資が高いように見受けられた一方で、20代後半以降の数少ない女性客になると、再びファッションへの投資が疎かになっている傾向がみられた。

3.秋葉原男性との比較では、年齢層の違い・カラー率の違い などの相違がみられた。一方で、勘違いピンハのような勘違いお洒落の存在・同人誌への熱心さ・同性一般とのファッション上の格差など、相似点もみられた。


 といったところだろうか。
 では、さっそくこれらの現象について考えてみよう。

 まず池袋同人ショップの女性客達は、髪にカラーを入れている割合が他地点で観察された女性達に比較して明らかに低かった。なお、他地点における観察の対象には「老女」「幼女」といった比較対照として不適当な年齢層も含まれており、実際、池袋の同人ショップ以外でカラー無しだった女性は全員50代以降ばかりだった。10代〜30代女性でカラー無しの人は他地点では一度も観察されなかったのだ!!髪にカラーを入れるという行為は、本来はファッションの一分野ではあるものの、10代〜30代女性の殆どが(稀に高難度の黒も含めて)カラーを入れていることを考慮すると、2004年現在においては半ば陳腐化・身だしなみ化した技術と考えることができる。余程綺麗な髪の人や人工的な黒カラーを除けば、単なる脱色も含め、殆ど全ての妙齢の女性がカラーを入れているのが現状のようだ。2004年現在、カラーを入れる事自体はお洒落だ何だではなく、風習化している。このような現状にも関わらず、これだけ高率に非カラーの10代〜30代女性が混入しているというのは驚きである。服装だけを宛てにしてファッションへの投資率を云々するには幾らかのリスクが存在するが、髪にカラーが入っているか否かは、或る傾向を偽り無く反映しているものと考えられる※1

 この事実から、池袋女性オタク達のファッションに対する投資は一般群のそれに比べて低いと推測できそうだ。『カラー率だけで判断するのは安直だ、服装や化粧なども考慮しろ』などと仰る方の為に付け加えると、服装や化粧までをも考慮すると「低い傾向」ではなく「モロ低い」になってしまうほどに差がついてしまう――そりゃ池袋の同人街でガツガツ同人漁りする時は、他の時ほど服装を気にしないわな――ので、お出かけ先による影響を受けない髪型だけに限定して、控えめな表現を選ぶことにしたのだ。ともかくも髪にカラーを入れないという選択は現在の女性ファッションにおいてマイナスになることこそあれ、プラスとなることは非常に少ない選択だと思われる。それがプラスの選択となるには前提条件があまりに多すぎるし、あまりにカラー入りの髪が常識化しすぎている。にも関わらず、美しき黒髪とは言い難い非カラー女性がゴロゴロ見つかるという状況は、珍しいと言わざるを得ない。今回観察された黒髪女性達が身につけていた服装などを思い出すにつけても、視覚的バイアスに対する投資・意識の低さを考えずにはいられない。非カラーも、単にその傾向のひとつに過ぎないように思えてならない。

 ファッションをはじめとする視覚的バイアスに対する投資が低い・意識が低いという傾向は、秋葉原で観察された男性オタク達とも共通する傾向であり、このことから、オタクは男女を問わずファッションに対する投資・意識が低いというステロタイプが浮かび上がってくる。やはり、アニメ・漫画・ゲームに対して投資も意識も集中させているのだろうか。しかしファッションに対する投資・意識が低いということは、女性の場合は男性以上にコミュニケーションの質と量に直結していると考えるべきであり、そのデメリットは非常に大きい筈だ。なぜなら、女性は同性同士でも見た目を厳しくチェックしがちであり、服装やファッションの志向によって様々な階級やグループに分けられがち(特に若ければ若いほど)だからだ。

 そのうえ、男性の女性に対するアプローチも視覚的バイアスに相当な影響を受ける(というか見た目に騙される男は未来永劫なくならないのだろう!)から、どのような視覚的バイアスを身にまとうかは女性のコミュニケーションシーンに強烈に作用しているだろう※2し、各人のコミュニケーション状況を類推する有力な手がかりとなるだろう。視覚的バイアスだけで判断するのは危険ではある。が、男性よりも遙かに見た目とコミュニケーションの状況が直結する女性であるがゆえに、

 女性オタク達のコミュニケーションスキルのアベレージは、非オタク女性のそれと比較して低い

 と言ってしまっていいような気がする。

 男性オタクの場合と同様、見た目も話術もきちんとした女性オタクも沢山いるし、むしろ男性オタクよりは『見た目じゃとてもオタクには見えない』女性が多いのも事実だ。しかし、池袋アベレージをとってみれば差は歴然とする。上手な偽装女性オタクが多い一方で、そうでない女性オタクが軽視できないほど沢山存在しているからだ。女性オタクの特徴として、男性以上にコミュニケーションシーンに見た目が与える影響が深い事を鑑みると、男性と同じような見た目のまずさがみられることは一種驚きであり、この特徴を持った女性オタク達のコミュニケーションシーンを類推すると、かなりまずそうな予感がするわけである。男性以上に見た目による有利不利がモノを言いやすい女性の世界で、見た目に対する投資と意識を削ってしまうことがどのような状態に直結するのかは推して知るべし、である。コミュニケーション上の不利を敢えて選択しているor選択せざるを得ない彼女たちが何を思って日々オタクをやっているのか、非常に気になるところである。私の知り合いには流石にそこまでの女性オタクが存在しないので、彼女達の心理的描写を詳しくすることが出来ない。残念なところである。

 次に、今回観察されたもう一つの面白い現象――女性客は若い年齢層に集中――について考えてみよう。秋葉原の男性オタクが(時間による傾向の差こそあれ)10代〜40代にかけて幅広い年齢層にみられたのに対し、池袋の女性オタクは20代前半よりも若い年齢層が大半を占めていた。また、少数の20代後半以降の女性オタク達は、若い女性オタク達に比べてファッションへの投資が目立って少ないように見受けられた。これらの年齢偏倚は一体何なのだろう!?どこが男性オタク達と違っているのだろうか?

 少なくとも、女性オタクの世界が最近になって勃興したからなどという理由はあり得ない。女性オタク達の歴史は男性オタク達のそれと比較しても十分に長く、古くはキャプテン翼やサムライトルーパーの時代から相当な規模を維持している。むしろ、同人誌販売の世界では男性オタク達の世界よりも長い歴史と多くの制作者/購入者を抱えてきていたかもしれないぐらいであり、現在になって急に若い女性オタクが激増したとはとても考えられないのだ。女性同人オタクたる妹からの情報をはじめ、そんなに急激に女性同人の人的規模が拡大したという話は聞いたことがない。

 また、商品のターゲット年齢が男性オタクのそれに比較して極端に低いからという理由も除外せざるを得ない。確かにアニメイトやK-Booksでグッズが売られたり、同人誌の対象になっているようなアニメ作品の多くが幼稚に通ずるものがあるといえばあるが、それは何も女性オタクの世界に限ったことではない。男性オタクの世界も、古くはセーラームーンから新しきはプリキュアまで、子供向けのアニメが大きな位置を占めているし、そもそも18禁同人誌の類は18歳以上がターゲットとなっている(子供も買ってるけどね)。男性向けであれ女性向けであれ、オタク趣味の対象年齢は同程度に見えるのだ。

 となるとやはり、理由が何であれ女性オタク達はある程度の年齢を境にオタク界隈からフェードアウトしている可能性が浮上してくる。残念ながら、女性オタク達の過半が二十代前半までにオタクを“卒業”しているのかを具体的に調査する方法は思いつかない※3。一定の年齢になったらもっと適応に有利な趣味・交際・立場にうつっていくのか?男が出来たからなのか?それとも同人漁りをやめてアニメや漫画を普通に見るようになるのか?ともかくも、何らかの事情によって女性オタク達の大半は二十代前半までに池袋のオタクショップから引退していると推定される。少なくとも男性オタクの世界に比べれば、歳をとるごとにオタク世界から出にくくなって固着する現象は少ない。もちろん全ての女性オタクがオタク世界から足を洗うのではなく、今回の調査で観察された極少数の高齢女性オタク達のように、目立った擬態も行わずオタク趣味一本に生き続ける女性も混じってはいるが、あくまでその割合は少数に過ぎない。

 ここが男性オタク達と決定的に異なる点であり、オタクの適応技術研究上、どうしても看過できないポイントだと私は考える。彼女達はオタクには違いない。だが、男性オタク達と異なり、彼女達の殆どはオタク以外の世界にも移行できる選択肢を失うことなくオタクの世界に浸かっているのだ。一部の例外を除いて、女性オタク達はオタクを卒業するか、完全には卒業しなくても非オタク分野とも上手く折り合いをつけて適応してしまう――とどのつまり、彼女達は男性オタク達に比べて柔軟性の高い状態を維持したまま(或いは柔軟性の高さを失わないまま)オタクをやっている可能性が高い。たとえ髪にカラーも入れず、池袋の同人ショップで粗末な格好をしていたとて、彼女達の多くは10年後には違ったポジションにいるものと思われるのだ。この性別による予後の違いは、いったい何に由来するのだろう?進化生物学や心理学、社会学などがこの事について様々な提言を為し得るのかもしれないが、今の私には確たる答えは見えてこない※4。女性の柔軟だが偏執性の無い特性・恋愛における女性と男性の差異・女性を取り巻く社会的圧力などなど様々な要因を挙げることは出来るが、まだ私の中ではよくまとまっていない。今回の調査結果のうち、年齢に関する男女差がこれほどクリアカットに示されるとは思ってもいなかったこともあり、意表をつかれた感じである。今後、ここを調査・考察していくと、何か面白い事があるかもしれない。



 ・おわりに

 以上、今回の調査を報告したうえで至らない考察を付け加えてみた。要因が何であれ、現象としてのオタクには男女差が存在することは間違いない。当サイトの主催者・シロクマは男性オタクなので女性オタクを観察する機会が相対的に少ないため、今回の調査は(幾らかは予想通りとはいえ)興味深いものであった。オタク文化論でしばしば言及されているような「キャラ萌えの相違」「主体と客体の問題」でみられるような相違は今回探っていないわけだが、そういった文化的な側面だけではなく、もっと身も蓋もない予後や社会適応の面で相違がみられるようなのだ。この相違は萌えの相違がどうのこうのといったレベルの説明だけで説明し尽くせるものではない気がする。様々な視点からの様々な議論に期待したい。
お前がやれって?
いや、私一人じゃあ駄目ですよ。


→この結果に関するオタク妹の見解を読んでみる






【※1反映しているものと考えられる】

 なぜこんなことを書くのかというと、女性はオタクも非オタクも含めて行き先に合わせて服装を変更することが非常に多いからである。以前の調査で見かけた男性オタクの場合、女性同伴者とそうでない者を比較しても服装にあまり変化はみられなかった。しかし女性(の多く)はそうではなく、行き先や出会う相手、目的に合わせて服装のレベルや志向を変更することが多い。これは私の周囲の女性オタク達でも頻繁に観察される習性で、アニメイトやそれっぽい店に行く時には部屋着同然でも躊躇しないが、気合いの入ったお出かけの時には徹底した装備とメイクで出撃する姿を観察することが出来る。この事を考慮すると、同人ショップ内の女性オタク達がファッションにおいて「手を抜いている」可能性は常に否定できない。

 しかし、髪のカラーは用途や行き先によって手を抜いたり気合いを入れたりすることは出来ないわけで、今回この調査の指標とさせて頂いたわけである。髪にカラーを入れているか否かはたった一つの指標に過ぎないが、用途によってファッションを変更する可能性のある対象を識別するには幾らかマシなマーカーだと考えたのである。

 同人ショップ内でカラーを入れていない女性は、同性異性と一緒にお食事の時もカラーを入れていないだろうし、お台場でデート中のカラー入り女性は、自宅で部屋着姿の時もカラーを入れている筈なのだから。




 【※2強烈に作用している】

 だからこそ、女性のほうが男性よりも服装や体型に鋭敏であり、ダイエットやファッション情報にうるさいのも頷ける。実際、見た目によって女性の命運は男性以上に左右されがちであり、女の子は小さい頃から他人にみられるという意識のもとで育てられている。どのような見た目が一番異性受け/同性受けするのかは地域や文化や時代によってまちまちだし、個人の好みの問題が絡むといっそうまちまちなのだが、ともかくも男性よりも遙かに視覚的バイアスによる影響を受けるとは言いきってしまっていい。

 …近年の特に若い世代の男性では、これに似た現象が次第に強まってきている。この問題は精神医学の世界でも着目されている興味深い現象だが、今回は触れないでおく。またどこかに機会に。




 
【※3調査する方法は思いつかない。】

 “思いつかない”と書いたし実際調査しようとも思わない。が、幸か不幸か、オタク界隈に育った私には女性オタクの知り合いが結構いたりしたので彼女達の行く末をちょっとだけ書いておこう。女性オタクの友人知人は、大学に進学した時か大学を卒業した時にオタクをやめてしまう人が非常に多かった。彼女達は大学入学以後はすっかり同人稼業から足を洗っているか、そうでなくても同人稼業に割り当てる時間を激減させており、大学卒業の頃には殆どの女性が同人稼業から足を洗っていた。また、親元を離れて一人暮らしを始めたことを契機にオタク稼業から撤退を余儀なくされた人もいたように思う。それでもなお同人活動を続けている女性オタクも混じってはいたが、そういう彼女達は見事なまでの擬態に成功しており、傍目にはまずオタクだと分からないだけのファッションと、非オタク分野の適応を達成していた。勿論、髪にはカラーを入れちゃんとした着こなしをしていたし、話をしてもオタオタしていて困るということのない女性達であった。

 私の知る10程度のサンプルを思い返す限りは、女性オタクが高齢になっても昔のオタクのまんまということはやはり少ないように見える。オタクをやめているか、オタクを続けながらも非オタク分野との交流を
 確保している人ばかりが目につくのだ(いわゆるキモオタ女は、幸い私の周囲にいなかった。まあ、いたとしても遠ざけていた可能性は高いが)。女性オタクの知り合いを沢山知っている方、あなたの周りではどうですか?





 【※4今の私には確たる答えは見えてこない】

 例えばだが、この男女差が日本独自のものなのか海外のnerdやgeekにも当てはまる現象なのかを知らなければ、日本固有の文化的ファクターが関与しているか否かを見極めることも難しかったりする。

 この問題に関する様々な立場からの議論が切望されるが、果たしてちゃんと議論される日が来るのだろうか?特に、生物学的視点に立脚して誰かやってください。無理?無理ですかとほほ…。