北原白秋
 

「思ひ出」より

  
 接吻




 にほひ
 臭のふかき女きて
  からだ   あつ
 身体も熱くすりよりぬ。
 
 そのときそばの車百合
      の ぼ
 赤く逆上せて、きらきらと
  とんぼ
 蜻蛉動かず風吹かず。
  あとし
 後退ざりつつ恐るれば
 
 汗ばみし手はまた強く
                 くちつ
 つと抱きあげて接吻けぬ。
 
 くるしさ、つらさ、なつかしさ、
 
 草は萎れて、きりぎりす
 
 暑き夕日にはねかへる。



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