【ラグナロクオンライン中間報告1(コミュニケーション的視点から)】
 2004. 03/16


 ゲーム内でのマイキャラクター関する簡単な説明:
 ・ラグナロクオンライン開始から約50日経過
 ・キャラクターは筆頭WizardがBaseレベル66、ギルド所属
 ・臨時パーティーによる未知の遭遇は7回程度

  ラグナロクオンラインにキャラクターを潜入させて、まず50日が経過した。
 この中で見聞きした出来事や感じとった構造について、いったんまとめて
 みようと思って書いたのが以下の文章だ。まだ50日しか経っていないことや、
 Player vs Playerやギルド砦争奪戦といった、対立が前提となっている状況を
 経験していないことなど問題は様々だが、この50日で感じた事を思いついた
 通り&考察したままに、見聞録として書いてみようと思う。


  ・比較的疎遠なプレイヤー同士の間のコミュニケーション

  プレイヤー同士のコミュニケーションは、挨拶や謝辞程度の軽いもの(辻ヒール
 や辻リサレクトに対する感謝アイコンの表出や、横殴りに対するごめんなさい
 アイコンやごめんなさいメッセージの呈示、など)は、非常に頻繁である。また、
 ソロプレイヤー同士が比較的近い位置で経験稼ぎをしている場合には、
 プレイヤー同士で獲物を奪い合うような状況はあまり発生せず、敵モンスターの
 ターゲッティングが確定した時点で、モンスターを倒して良い権利が暗黙の諒解
 のうちに決定される傾向が強くみられた。これは、ダンジョン内でのパーティー
 プレイにおいても、屋外におけるソロプレイでも非常に強く感じられることだった。
 さらに、困っているプレイヤーやパーティーを発見した場合には、(余力がある
 場合には)ヒールなどの互恵的活動が行われる傾向が多くみられた。これらの
 お陰で、多くのダンジョンやモンスター狩り場ではプレイヤー同士が揉める事が
 非常に少なく、むしろ互助的にプレイが行われる傾向が観察された。※1

  また、見知らぬ人にものを聞かれた場合(或いは見知らぬ人にものを聞いた
 場合)基本的には礼儀正しく応答するプレイヤーが大半であった。このため、
 初心者であっても比較的すんなりとゲーム共同体内に慣れることができ、
 コミュニケーションスキルがそこそこ拙劣なプレイヤーであってもラグナロクの
 マッタリとした世界に馴染みやすい。全体として、見知らぬ者同士のコミュニ
 ケーションは、拒否や敵対や疑念よりも、寛容と互助と信頼が前景に出ており
 ラグナロクの世界を非常に居心地の良く、初心者やコミュニケーションスキルの
 乏しい人でも馴染みやすいものにしていると推測することができる。


 ・臨時パーティーや臨時ペア時におけるコミュニケーション

  次に、ラグナロクだけでなく、他のオンラインゲームでもしばしば起こる、
 見知らぬ者同士が共通の利害のもとに協力して活動する臨時パーティー
 プレイの実状について書く。

  ラグナロクにおける臨時パーティープレイは、比較的似たレベルのキャラクター
 同士でなければ組むことが出来ない(パーティー間のレベル差が+−10以下)
 や、異なる職業同士が集団を組んだほうが効率的にミッションを達成できる事と
 いった、ゲームシステムによって規定された構造の影響下において行われる。
 このため、基本的には臨時パーティーを組むプレイヤー同士は、対立したり
 もめたりするよりも、チームワークを組んでプレイしたほうが各自の目的を達成
 しやすくなっている

  そして、メンバー内にプレイスキル・通信速度によるラグの影響に幾らかの
 ばらつきがあったとしても、「異なる職業同士が組めばそれだけでありがたい」
 ので、余程プレイレベルやキャラクターステータスがお粗末で無い限りは臨時
 プレイに受け入れられることが可能である。そして前述の通り、見ず知らずの人
 同士であっても気軽に質問したり話したりできるような、好ましい「atmosphere
 (雰囲気、と書いていいものか迷って英語にした)」が存在しているため、分から
 ないことや困ったことがあった場合は、プレイヤー同士の間で比較的ラクに意見
 交換しやすい。そして意見交換は臨時パーティーにおいてはゲーム世界に関する
 ものが中心なので、(リアル世界でのデートの時などとは違って)話題に困ることも
 なく、流暢に会話が進みやすい。さらに、感情アイコンの存在によっていっそう
 会話が円滑なものになっている印象もある。

  また、日本人の民族性なのか何なのか、よほどお粗末なプレイをしない限りは
 例え臨時パーティーが全滅したとしても、互いに罪をなすりあう事はあまり無い
 むしろ、パーティーが全滅したのは各自全員にそれぞれ責任ありとするような、
 寛容な臨時パーティーが殆どである(なお、友人から、寛容さも礼儀も無い臨時
 パーティーが存在することを聞いた。実際、その後の調査ではそのような臨時
 パーティーを発見したこともある)。ミッション終了後のアイテムオークションや
 お金の分配もスムーズかつ紳士的であり、滞ることはこれまでに一度もなく、
 好意的な状況下で最初から最後までプレイが続く傾向がみられた。

  以上のような状況から、臨時パーティーに参加するプレイヤー達は、(ラグナロク
 日本版全体にもある程度までは当てはまることだが)少なくとも礼節や約束には
 比較的まじめな人達が多数を占めており、幾らかイレギュラーな人がいると
 それを注意するような、共同体としては非常に安定した環境を構築していることが
 推測された。プレイヤーの会話の内容から察するに、そして臨時パーティーの
 募集・活動・解散の安定度から察するに、臨時パーティーに頻繁に参加する
 ラグナロクプレイヤーのコミュニケーションスキル(あくまでゲーム内での、に今は
 限定しておく。リアル本人のスキルはディスプレイ越しでは分かりづらい)
 比較的マシで、モラルも高いプレイヤーが多いと考えられる。この事は、臨時
 パーティーを経験したいと思う多くのプレイヤーにとって非常にありがたい事で
 あり、ゲーム内でのコミュニケーションに幾らか慣れてさえいれば、見知らぬ者
 同士でも容易にパーティープレイを楽しむことができるというメリットを生みだして
 いる。(韓国版についての話が本当なら、こんなatmosphereは得られにくいこと
 だろう。ギスギスしてそうだ)


 ・ギルドについて

  ギルドについても、あまり深く関わっていないので限定的な事しか書けないし、
 おそらく今後の観察によって異なる総括が生まれるような気がするが、一応
 書いてみる。ギルドは、プレイヤー同士が集まってゲーム内での居場所を得たり、
 ゲーム内での親しい友人をつくることに大きく寄与している。友人を得るための
 仲良しギルド(多くのまったりしたギルドはこれ)、プレイヤー自身の趣味や嗜好が
 共通している者同士が集まって遊ぶギルド(銀河英雄伝説ギルドや、幾つかの
 ギャルゲーギルド、あるいは猫好きが集まったギルド、など)、そしてゲーム内での
 共通目標の為のギルド(大商人達の市場操作ギルド、PvP用の戦闘ギルド、等)
 などなど様々な目的と様式を持ったギルドが存在しているが、いずれのギルドの
 場合も、ギルド内プレイヤー間のコミュニケーションを促進し、場合によっては
 共通の利害を達成しようとする小さな共同体として機能している(逆に言えば、
 機能していないギルドは自然消滅するし、その機能と合致しないプレイヤーは
 ドロップアウトするか、他のギルドに乗り換えることとなる)

  ラグナロクにおけるギルドというシステムは、プレイヤー間のコミュニケーション
 を促進し、「居場所」を与え、ゲーム内におけるキャラクターの占める位置を
 より社会的なものにする傾向があるように見える。このため、ギルドに所属した
 キャラクター(とプレイヤー)は、ゲームに一層深く関わる(或いは関わらざるを
 得なくなる)傾向が強くなるし、関われば関わるほど仮想空間における自分自身の
 アイデンティティも強化される。これは、ゲームとしては実に素晴らしいシステムで
 あり、コミュニケーション不全の引きこもりやリアル世界で社会性・アイデンティティ
 ・コミュニケーションなどで不遇の人にとっては強烈な麻薬となり得る。もちろん
 ギルド内で旨くやっていくには、最低限のマナーやコミュニケーション能力・幾ばく
 かの共通話題や共通目標が必要となるが、リアル世界で一般に求められる
 水準に比べればそれらは遙かに低いもので構わず、感情表出アイコンのお陰で
 (リアルでは難しい筈の)エモーションの伝達も簡素ではあるが容易だ。このため
 ギルド内に定住して居場所をみつける事は、リアル世界で居場所を見つけるより
 相対的に簡単だと推測される。

  また、ギルドメンバー同士で繰り返される協同プレイや互助的行動(互助的行動
 が日本版ラグナロクの大勢を占める事は前述した)によって、プレイヤー間の
 コミュニケーションや居場所造り、アイデンティティの獲得がいっそう促進される
 ことになる。ギルドもまた、臨時パーティーやゲームプレイヤー内部の互助的
 atmosphereと同様、プレイヤーの居心地を良くさせ、ゲーム世界に定着させる
 効果をいくらか担っていると言えそうだ。


 ・商人の販売や、製造に関して

  商人が露店で販売できるということが、ラグナロクゲーム世界の社会性を
 さらにリアルに近いものにしていることは想像に難くない。首都プロンテラの
 商業活動は、まさに市場と呼ぶに相応しいものがあり、さらに大商人達の
 市場操作と(カード等の)インサイダー取引、市場価格情報Websiteの存在などが
 これに拍車をかけている。加えて、商品のなかにはプレイヤーが原材料から
 加工を施さなければならないアイテムが多く存在することも注目に値する。
 一人のプレイヤーが独力で生産して販売するよりも、材料販売者・製造者・
 製品販売者などに分化して武器や薬品を流通させたほうが利潤があがりやすく、
 購入者にも安く製品を提供できるというメリットが存在するようだ(実際、
 商人スキルやブラックスミススキル、アルケミストスキルはそのような分化に
 適したものになっている。この辺りは、ゲームデザイナーの功績だろう)
 このゲーム内の商業構造は、商業活動に参画する商人プレイヤー達の心理に
 何らかの意欲的な影響を与えているだろうし、ゲームのバーチャルリアリティさ
 加減にも強い影響を与えていると考えられる。

  少し話がずれるが関連するファクターとして、ラグナロクの世界では通貨
 (ゼニー)が通貨として完全に機能しているところも、社会性の向上に寄与して
 いるのではないだろうか。チートが存在しないこと(BOTは存在するが)、本来
 なら購入不能のレアアイテムでも露店の存在によってとてつもない値段での
 取引が可能なことも手伝って、ラグナロクの世界の通貨は、通貨として完全に
 機能している(過去のネトゲ、例えばディアブロ2やPSOではこれほど通貨が
 機能できなかった事とは好対照を為していると言えるだろう)。このため、
 商人を中心としたキャラクター達は、どれほどレベルが上がってもゲーム内
 通貨を集めたくなるし、通貨を集めればそれだけでも様々な事が可能になる。
 その最も極端な例が、大商人による市場操作とインサイダー取引だと私は
 感じている。そして、そのような大量のゼニー持ちのギルド群は、ラグナロク
 世界全体に対してそれなりの影響力を行使することができる。通貨が通貨として
 きっちり通用するという事や、市場の変動と支配、・商業活動の分業化などと
 いった諸ファクターは、ゲーム内通貨にこれまでのいかなるゲームよりも強烈な
 リアリティを与えているのではないだろうか。通貨のリアリティは結果として、商人
 プレイヤー達に「支配の達成」「自己達成感の獲得」「ゲーム内でのアイデンティ
 ティ向上」「影響力の行使」といった様々な副次的心理効果をもたらし得る。


 ・コミュニケーションや自己表出を豊かにするアイテム群

  ラグナロクのMMOとしての特徴(或いは新しいMMOは幾らかこの傾向がある
 ように見受けられるが)として、キャラクターの見た目や自己表出に役立つ、
 というかそれ以外には全く役立たないアイテムやペットが存在することが挙げ
 られる。これらのアイテムやペットは大抵の場合、入手がかなり困難だったり
 高額だったりする癖に、キャラクターの強さを補正する事には殆ど役立たない。
 ゆえに、ディアブロ2のような従来型のオンラインゲームであれば、それほど
 重視されずに廉価で取引されるべきアイテム群である。しかし、ラグナロクでは
 これらのアイテムは市場価格が高騰しており、そしてプレイヤー達はそれらの
 自己表出に役立つアイテムを好んで身につけている。現実世界で言えばいわば
 ファッションに相当するこれらのアイテムは、普通の兜や防具よりも非効果的な
 装備品なわけだが、多くのプレイヤーは、自己表出に役立つファッションアイテム
 群を不格好な実用一辺倒のアイテム群よりも選択する。あるいは、実用と
 ファッションの両方のアイテムをわざわざ保有して、冒険時には実用を、普段の
 ギルドコミュニケーションの際などにはファッションアイテムを選択する。現実世界
 ではファッションのフの字も知らないプレイヤー達でも、ラグナロクの世界内部
 ではファッションや見た目に注意とゼニーを投資している。とりもなおさず、この
 手のアイテム群の存在もまた、プレイヤーに自己実現感や居場所の提供など
 を与えることに寄与し、キャラクター同士のコミュニケーションを促進しているように
 感じられる。後述するように、ラグナロクオンラインのプレイヤーの全部ではないが
 多くは、現実世界では比較的社会的自己達成感の低いレベルに位置するコミュニ
 ケーションスキルが低劣なオタクと推定され、ファッションなどの自己実現・アイデン
 ティティ代替手段に乏しいものと思われる(後述)。彼らにとってリアル世界で
 お洒落だったり美しかったりすることは、実現したいもののなかなか実現出来ない
 ことかもしれない。ゆえにこそ、そのようなプレイヤー達にとって、ラグナロク上
 の架空のファッションやペットを購入しての自己実現・自己表現は、高価なゼニー
 に値するものだという事は想像に難くない。※2


 ・テロ、結婚、富くじ、ラグナロクブライダル、転生など

  社会性とコミュニケーションの豊かさを反映してか、ラグナロクの世界では
 社会的なイベントや事件も多数発生する。そしてそれは制作元のグラビティが
 おそらくは当初予測していなかったであろう事態をも包んでいると私は勝手に
 推測している。その証左が、テロ、キャラクター結婚や恋愛・離婚、富くじ
 (ガチャガチャと呼ばれる事が多い)、そしてラグナロクブライダルなどの様々な
 副次的な社会的役割の発生ではないだろうか?これらの出来事は、ラグナロク
 が社会性の高い、社会バーチャルリアリティとしての完成度の高いシステムで
 ある事の証明でもあるだろうし、そしてこれらの現象が発生することによって
 ラグナロクの世界はますます社会性を強く帯びるようになり、プレイヤー達が
 ゲームを通して感じる擬似的な社会的達成感やコミュニケーションの質を一層
 高めることに寄与することになる。

  グラビティは後になってこれらの現象に着目したのだろうか、韓国版では既に
 結婚システムなどが実装されている(日本版でも実装されました。子どもも作れ
 ます)。ブライダルのシステム化など、プレイヤー間で発生した社会的イベントを
 ゲームシステムそのものとして取り込むことは、このゲームのバーチャル
 リアリティさ加減をさらに促進させることだろう(特に社会性の高低という次元で)
 くわえて小パッチが季節ごとに更新されて、クリスマスやバレンタイン・雛祭りと
 いったイベントが催されることが、一層ラグナロクの社会性を高くしている。
 これらの季節的な小パッチによってもたらされる行事は、RPGとしてのゲーム
 バランスやゲームシステムに直結するものではなく、ラグナロクのゲーム内の
 社会性を高めてプレイヤー間の社会的営みにアクセントを提供する役割を
 担っているように見受けられる。
 

 ・ラグナロクプレイヤー達の会話から感じられるプレイヤー層

  プレイヤー間の会話を盗み聞いたり、実際に様々な場面で話しかけてみると、
 (こちらの当初の予定通り)2chやオタク界隈で共通言語になっている語彙が
 流通していることがわかる。顔文字も、携帯電話で頻用されているようなものより
 も、ネットBBSやチャット、あるいは2ちゃんねるで多用されているものが主流を
 占めており、言い回しもオタクホビー界隈で流通しているものが多い(例えば
 ガンダムの台詞や概念は、ラグナロク世界では比較的一般的な語彙として使用
 されている。ちょうど、コミケの会場や、オタク同士のオフ会・2ちゃんねるのオフ
 会に出た時と同じ程度に)。前述の通り、ラグナロクオンラインの世界では寛容
 と礼節のatmosphereが達成されているわけだが、その際の会話は、オタク同士
 の会話によくみられる語彙の使用やAAに依るところも幾らかあるようだ。また、
 話題の振り方や喋り方も、オタクオフ会やコミケの会話でみられるものと親和性
 が高いものが観察されている。

  以上から、(現時点の私の観察結果の範囲内では)ラグナロクプレイヤーの多くは
 オタク界隈の出身者もしくは、オタク趣味に造詣のある人物が多いと推測される。
 また、2ch慣れしたプレイヤーも多いように見受けられる。これは、私の当初の
 予想通りのものであり、ギャルゲー用語や語彙の含有率などから、彼らの多くは
 私のサイトで取り扱う、コミュニケーションスキルが拙劣なオタク(ただしオタク同士
 やラグナロク上での会話には苦労しない程度)が大半を占めるものと推測される。
 引きこもりほどではないにせよ、ゲームや趣味を媒介とした同好の志同士の
 コミュニケーションは流暢だが、異性とのコミュニケーションや、異なる文化集団
 とのコミュニケーションが不得手な、典型的若年男性を私はディスプレイの向こう
 に想像している※3

  なお、引きこもりと判定出来るプレイヤーを見つける事は、ラグナロク上の
 コミュニケーションを通してでは意外と難しいという事が判明した。少なくとも、
 社会的引きこもりを来していることを特定できたプレイヤーは、まだいない。
 不登校の少年やヘビーなオタク、昼夜逆転仕事不良のオンラインゲーム症候群
 該当者なら幾らでも見つかるのだが、精神科ガイドラインで定義づけられている
 ような明確な社会的引きこもりと特定できるプレイヤーは、まだ見かけない。

  もしかしたら、ラグナロクをプレイしている真性引きこもりの多くは、ゲーム上の
 簡便な対人コミュニケーションにすらついていけず、ギルド無所属・無言で狩りを
 続けているのかもしれない。しかし、ラグナロクの場合、BOT(無人で経験稼ぎを
 するプログラムに操られたキャラクター)が混じっているため、ギルド無所属で
 無言で狩りだけを黙々と続けるキャラクターが、無言のプレイヤーキャラクターか
 BOTかを見極めることは難しい。BOTの存在は、無言プレイヤーを検出する
 うえで非常にウザいな存在で、話しかけたり表情アイコンを送っても返事が無い
 からと言って、それがコミュニケーションが全く出来ないプレイヤーであると断定
 することは到底不可能である。とにかくBOTが多すぎて、無言のキャラクターは
 大抵BOTに見えてしまうのが現状だ(いや、おそらく殆どがBOTなのだろう)

  今後も、ラグナロク上にどれほど引きこもりプレイヤーがいるのかを熱心に探し
 回っていく予定だが、多分引きこもりの総数は全体の割合から見ればごく少数で
 あろうとは推測され、引きこもりの間で特にラグナロクが流行っているということは
 無いと思われる。確かにオタク、特に現実では侮蔑されてそうな重オタクが多い
 ため、プレイヤーの平均的な対人コミュニケーションスキルはおそらく社会平均を
 かなり下回り、コミケ参加者などの統計とほぼ同じに落ち着くように見えて仕方が
 ないのだが、引きこもりを呈していて、なおかつラグナロクに参加しているような
 極度にコミュニケーションスキルの衰えたプレイヤーはあまりいないように思わ
 れる。
 【2006年注:本当に廃人な人達と当時私は接点を十分持っていなかった!確かに
 廃人は存在する!ゲーム内で恐るべき地位と資産と能力を誇る彼らは、昼も、
 夜も、明け方もログインして様々なことをやっている!彼らの平均年齢は比較的
 低いようである。】


  ・以上をまとめると
 
  ラグナロクオンラインというゲームは、ゲーム世界がある種の社会性を強く
 帯びており、それゆえにプレイヤー達はゲーム内の世界でより強く社会性を
 感じることができる。MMOとしてのゲームシステムの完成度は、私がゲーム
 プレイ前に想像していたよりも遙かに高かった。プレイヤーは、ギルド制度・
 寛容でモラリッシュな世界全体の雰囲気(韓国版はどうだか知らない)・資本主義
 システムとして一応破綻していない通貨制度と商人制度・生産システム、等々
 によって、従来のゲームに比較して高い社会性を感じることが出来る
 プレイヤーは、ゲームシステムのバックアップのもと、従来型ゲームやインター
 ネット上の通常のチャットに比較して遙かに高水準の「自己実現感」「コミュニ
 ケーションの充足感」「ゲーム内における自分の立ち位置」を感じることができる
 しかも、通常型のチャットやリアル会話などに比較して遙かにコミュニケーション
 スキルの敷居が低いので、初心者でも比較的簡単にゲーム世界に溶け込む
 ことが出来るし、ギルドや臨時パーティーに属したとしても、以後も一定水準以上
 のコミュニケーションスキルを求められることは少ない。※4

  また、これはMMO全体に言えることかもしれないが、ボスを倒すだの何だのと
 いった定型的な物語を受動的に経験させられるのではなく、自分の物語をゲーム
 世界の中で能動的に構築していくことができるという点も、見逃せない。『受動的
 に遊ばされる』という状態と、『能動的に遊ぶ』では、自己達成感が格段に違う
 だろうし、明らかに後者のほうが飽きにくい。たといその能動性が、メーカーに
 よって仕組まれたものだとしても、である。

  これら全ての要素が合わさって、ラグナロクオンラインというゲームは従来型の
 ゲームよりもプレイヤーが心理的満足、特にコミュニケーション・社会的充足感を
 味わいやすくできているのではないだろうか。そして、ラスボスだの何だのが無い
 うえに、ゼニーの蓄積や(ゲーム内での仮想)社会的地位には上限が無いため、
 目標設定次第では長期に渡って自分の物語を満足のうちに追いかけることが
できる。これらから、バーチャルリアリティとしてのラグナロクは非常に完成度の
 高い疑似社会システムである、と言えるだろう。もちろんグラフィック面やキャラ
 クターの生活のリアルさといった面では省略や粗がみられるものの、そんな事は
 バーチャルリアリティが包含する社会性の高低にはそれほど影響しない(ここを
 勘違いして、リアルに近い画像やリアルに近いキャラクターの振る舞いこそが
 バーチャルリアリティの完成度の高さだと思いこんでいる人がいるようだが…
 たぶん、それは違うような気がする)。さらに、結婚システム等をゲームシステム
 として制式化するなどの追加パッチをみる限り、グラビティは明らかにラグナロク
 オンラインの社会性の高いバーチャルリアリティとしての特徴に着眼し、さらに
 それを高めてやろうと努力しているように見受けられる。

  前述した、
 1プレイヤーにオタク趣味傾倒者が多いこと
 2ラグナロクのデザインがオタク受けしそうな、目の大きな2D描写であること
 3オタク趣味傾倒者の多くが、現実世界ではラグナロク上ほどの強烈な自己
 実現や他者への影響性(と被影響性)を達成しておらず、異性との接触が乏しく、
 全体としてコミュニケーションの達成度合いが低い傾向

 などを考えると、多くのラグナロクプレイヤーがゲーム上でのバーチャル体験の
 社会性の豊かさに首ったけになってしまう確率は極めて高いと思われる

  ラグナロクプレイヤーが呈する中毒性・嗜癖性は、この辺りに由来するのでは
 ないだろうか?リネージュやそのほかの韓国産ゲーム・米国産ゲームの現状は
 どうなのか?まだ調査が不十分なので不明の部分も多いが、この50日で観察した
 限りにおいては、ある種の人々(具体的には、自己実現がリアル世界では低い
 コミュニケーションスキルの低めのオタク・ただしラグナロクの世界に適応できる
 程度の最低限のコミュニケーションスキルは持っている人々)には強烈な求心力を
 持っていると言えそうだ。このような人々は、現実世界ではなかなか「居場所」
 「社会性の獲得」「コミュニケーションの獲得」が得られないため、いったんこの
 世界に適応してしまうと、その内部における「居場所の獲得」「社会性の獲得」
 「コミュニケーションの獲得」が居心地よく感じられてしまって病みつきになるもの
 と推測することが出来る。そして、病みつきになって膨大な時間をオンライン
 ゲームに費やすことは、結果として現実生活におけるコミュニケーションスキル
 の発達を遅らせたり、学習や就労といった活動に悪影響を及ぼす可能性を惹起
 し得るだろう。殊に、思春期の少年・少女が際限なくラグナロクをプレイしまくった
 場合、社会性やコミュニケーションの能力獲得に深刻な影響を及ぼす可能性が
 あるのではないだろうか。

  このような、一つのものにかかりっきりになる→それによって他が疎かになる→
 コミュニケーションスキルが落ちる という、よくあるオタクの垂直降下は、ラグ
 ナロクにおいては特に起こりやすいように見える。従来のオタクホビー(ギャル
 ゲーやアニメなど)と比べて高い中毒性・嗜癖性を持っているぶん、その毒性は
 強力と言える。そしてプレイヤー層がオタクに偏倚しているという事と、それに
 伴うプレイヤー層の特徴が、俗に言うオンラインゲーム症候群の発生と大いに
 関連がありそうだと私は思っている。何が言いたいのかというと、つまり、オン
 ラインゲーム症候群には、なりやすい人間となりにくい人間がいて、コミュニ
 ケーションや自己実現・社会性の獲得の度合いが未熟だったり低い人間ほど
 罹患しやすいのではないかと推測するのだ。ただしこれはあくまで現時点での
 推測だ。さらに調査を続け、どのようなプレイヤーがいわゆる“ラグナロク廃人”
 になりやすいのかをさらにはっきりさせる必要がある。


  一方、参加プレイヤーの中から引きこもりに該当しそうな人を捜す事が困難
 であるという現状からは、

 1引きこもりはラグナロクの世界では少数派か、殆どドロップアウトしてしまう
 2引きこもりでも、上手に素性を隠してごく普通のコミュニケーションが可能
 3引きこもりがラグナロクをプレイすると、次第にゲーム上で普通に振る舞える
 程度のコミュニケーションスキルを獲得できる

 のいずれかの可能性が浮上してくる。
 いずれの推測が当たっているとしても、もし真性引きこもりがラグナロクの世界
 になじめた場合、彼のコミュニケーションスキルを、オタク底辺あたりぐらいまで
 “引き揚げる”ことができるかもしれない可能性が示唆される。多くのオタクや
 思春期少年・少女のコミュニケーション育成がラグナロク漬けで阻害されるの
 とは正反対の効果、である。少なくとも、ラグナロクをやる事によって引きこもり
 が大量生産される、という図式は当てはまらないように思えてならない。それ
 ばかりか、真性引きこもりに対してはラグナロクが社会勉強の簡易ツールとして
 役立つ可能性も浮上してきた(とは言っても、ある水準以上の浮上には役に
 立たず、せいぜいオタクカースト最下層ぐらいのレベルまで引き揚げるのが限界
 だろうけれど)。引きこもりとラグナロクの関係についての考察は、私が当初想像
 していたものと幾らか違うような気がする。この、引きこもりとラグナロクの関係
 についても、今後もじっとりと調べていく必要があるだろう。


 ・さいごに蛇足

  50日で感じた事を自分なりに考察してみた。ラグナロクの世界が包含する
 社会性の高さが、私の想像を遙かに超えていたことが、様々な憶測に修正を
 迫ることとなったように思える。ラグナロクの世界は想像以上に居心地がよく、
 居場所があり、それゆえ当初の予想以上に中毒性が高い(私も今では立派な
 ジャンキーだ)とみた。このことが、オタクや思春期プレイヤーのコミュニケー
 ション成長を(ラグナロク内で不自由しない程度のレベルで)停止させてしまう
 リスクと、真性引きこもりのコミュニケーション阻害をラグナロク内で不自由しない
 程度のレベルまで)改善させる可能性を生みだしているのではないかと考えて
 いる。ただし、所詮はこんなものは50日間ラグナロクをやっただけの考察に
 過ぎない。次回、第二回中間報告を制作したいと考えている。まだまだ観察も
 考察もコミュニケーションも不足しているので、きっと新しい発見や修正すべき
 先入観が残っているに違いない。次の中間報告では、新しい発見や先入観の
 除去に伴って、きっとまた違った推論が生まれてくるのだろう。特に、イタい
 プレイヤーや引きこもりプレイヤーの発掘は急務である。さらなる調査を続行し、
 さらなる考察を試みたいものだ。

 [関連]
 →オンラインゲームが侮蔑されやすいオタクにもたらす影響への、危機感の表明
 →オンラインゲームに関する専門家の誤った言説
 →福祉ネットワーク第一回放送のRO廃人――自己実現は蜜の味

 ★このテキストについても、皆様のご意見ご見解をお待ちしております★

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 【※1傾向が観察される。】
  なお、韓国におけるラグナロクに詳しい知人談では、韓国ではこのような
 互助的・譲り合い的な傾向は殆ど見られず、むしろ横殴りや奪い合いが日常
 茶飯事とのこと。さらに、辻ヒールなど滅多に行われず、逆にかけて欲しい
 プレイヤーが「かけてくれ」とメッセージ表出し、そしてそれがほとんど無視
 されるという現象が起こっているらしい。日本人的視点に基づいて考えると、
 個人主義の自己主張の過剰に伴うギスギスした住み難い共同体のように
 思われるが、おそらく韓国人にはそのような状況がむしろ常識的なのだろう
 この差異は、民族性や社会病理が幾らか反映されているものと推測される。

  そして或いは、このような国民性が、韓国や米国ではラグナロクよりも
 リネージュに人気があって、日本ではラグナロクが人気を集めているという
 事実と関係しているのかもしれない。ただし、日本版リネージュについての
 情報が不足しているので、あくまでこれはソースの無い憶測だが。





 【※2想像に難くない。】

  このようなラグナロク内における体験を応用して、現実社会でも自己表現の
 手段として様々なアイテムをファッションに用いるという事に気づき、実行し
 始めるプレイヤーはどれぐらいいるのだろうか?キャラクターを美しく飾り立て、
 高価なペットを持ち歩くキャラクターの持ち主は、きっと現実世界でも自分を
 美しく飾り立てたり、ブランドモノのバッグを持ったり、アルファロメオやRX-7の
 ようなステータスになるクルマに乗ったりして喜ぶと思うのだが。

  金銭的な制約の範囲内で、という限定はつくものの、そのようなプレイヤー
 ならば、リアル世界でも自己表現の為に資本と時間を投下する事をあまり
 嫌がらないと思いたくなる。しかし、この辺りの事情は、実際のところは、まだ
 よく知らない。また、ラグナロクを契機にお洒落になった人というのもよく知ら
 ない。今後、調査したい項目である。




 【※3ディスプレイの向こうに想像している。】

  私のサイトのおやくそくだが、そのようなオタクであったとて、それがいけない
 というわけではない。そして、そういうコミュニケーションが不得手であるが故に
 侮蔑されることもあるオタクの多くが、礼儀正しく心根のいい青少年(女)である
 事も忘れてはいけない。実際、ラグナロク上で出会う彼らの多くは、非常に礼儀
 正しく、寛容な人々であり、同じオタクとして非常に好感が持てるわけである。

  ただし、オタクでない人がリアル世界で彼らに出会ったら、コミュニケーション
 スキル上の問題から、侮蔑されたり邪険にされたり交流に失敗する確率が
 高いであろうとは推測できる。これは善悪の問題ではなく、可否の問題である




 【※4求められることは少ない。】

  このことは、現実世界では、年齢や地位の向上・異性や他世代との接触の
 増加に従ってコミュニケーションスキルをより高く求められるのとは好対照だ。