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【14】父は偉大だった

    -陰徳の人

 11月26日、会長をしていた父が亡くなった。覚悟はしていたけれど、だから泣かなかったけれど、あれから2週間、店に出るとやはり体の中を冷たい風が吹き抜けるような寂しさを感じる。

長く、すし職人としてうちに勤めていて、その後寿司屋さんとして独立した人が父が社長をしていた頃は大勢いた。その中の一人が、御通夜の日に私に話してくれた。私は初めて聴く話だった。

「独立する時に、これを持って区役所へ行って要るだけの証明書を取って来いと、僕に印鑑証明の印鑑を預けてくれた、こんな人は他にはいない、本当に可愛がってもらった。」

父は寡黙で、いつも人の話をじっと最後まで聞き、モノを言う時はホンの少しだけ、しかし要点を付いていた。まるで禅問答のような時があったが、後で考えると、本当によく考えられたひと言だった。

相手の非をとがめる時さえ、相手に決定的な傷を付けない様に、必ず相手に逃げ道を残した物言いをする優しさも兼ね備えていた。

決して派手ではないが、と言うより、むしろ地味で、個人の生活は犠牲にしても仕事に尽くした生活だったので、亡くなった母にとってはとても大変な生活だった。家族より店の従業員の人たちの方が大切なのかと思うような所があったけれど、それは父の責任感のなせる技だったのだろうと今思う。

そんな父の死を心から悼んで送って下さった人たちに、私は感謝を忘れない

人は自分のした良いことは賞賛して貰いたくて、普通は言いたくて仕方が無い。人に何かしてあげたことを恩着せがましくする。でも、父はそういうことはしない人だった。しかし、人にしてもらったことは決して忘れなかった。まさしく、隠徳の人だった父にも心から有難うと今思う。そして誇りに思う。

私も出来るだけ父のような信念を持って人生を貫きたい。そして、私の息子も、私の背中をしっかり見ていてくれると思っている。(2004/12/10)

  ■父の世代の教養

【15】ケネディー元大統領の演説

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