山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
  寝てゐる人間について


 
 みろ
 
 何といふ立派な骨格だ
 
 そしてこの肉づきは
 
 かうしてすつぱだかで
 
 ごろりとねてゐるところはまるで山だ
 
 すやすやと呼吸するので
 
 からだは山のうねりを打つ
        やす
 ようくお寝み
 
 ようくおやすみ
           ゑ ひ
 ゆふべの泥酔がすつかりさめて
 
 ばつちりと鯨のやうな目があいたら
 
 かんかん日の照るこの大地を
 
 しつかり
 
 しつかり
 
 ふみしめて
 
 またはたらくのだ
 
 ようくおやすみ
 
 おお寝てゐる人間のもつてゐる此の偉大
 
 おおびくともしない此の偉大
 
 それをみてゐると
おのづか
 自らあたまが垂れる