山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 郊外にて


 
赭土の痩せた山ぎはの畑地で
 
みすぼらしい麦ぼが風に揺られてゐた
 
わたしはすこし飢ゑてゐる
 
わたしは何かをもとめてゐる
 
麦ぼの上をとほつてどこへ行くのか
 
そよ風よ
 
みどり濃く色づいた風よ
 
都会の空をみろ
 
烟筒の林のしたの街街を
 
つばめはそのなかをとんでゐる
 
人人もそこに棲むのをよろこんでゐる
 
ここにゐてきこえる
 
あの空に反響する都会の騒擾
 
そこはまるで海のやうだ
 
風はそよそよと
 
麦穂に何をささやくのか
 
麦ぼは首をふつてゐる
 
それがさみしい