山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 麦 畑


 
此のみどり
 
ああ此のみどり
いのち
生命の色!
 
憂欝なむぎばたけのうつくしさ
 
むぎばたけをみてゐると
 
自分にせまる人間の情慾
 
此の力のかたまり
 
人間の強い真実
 
これこそ深いところから
 
浪浪のうねりをもつて湧き上つてくる力だ
      なまなま
そして生生しい土の愛により
 
どんなに大きな健康を麦ぐさはかんじてゐることか
 
ああ此の麦ぐさの列
                    そ ら
ああ、けふばかりは蒼天も自分にふさはしく
 
どこかで雲雀もないてゐる
 
ああ此のみどり
 
此の麦のみどりに手を浸して
 
自分はなみだぐんでゐる