山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 消 息


 
はつなつの木木の梢をわたる風だ
 
穀物畠の畝からぬけでてきた風だ
 
わたしらの屋根の上を
 
それはまるで遠くできく海の音のやうだ
 
その下にわたしらはすんでゐる
 
魚類のやうにむつまじくくらしてゐる
 
風はしめやかだ
 
たかいあの青空をわたる風だから
                          ヽ ヽ ヽ
時時すういと突刺すやうにつばめなんどを飛ばせてよこす
 
そしてわたしらをびつくりさせる
 
わたしらはむつまじくくらしてゐる
 
わたしらは貧しく而もむつまじくくらしてゐる
 
わたしらは魚類のやうにくらしてゐる