山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 労働者の詩


 
ひさしぶりで雨がやんだ
           あきち            ひ
雨あがりの空地にでて木を鋸きながらうたひだし
 
わかい木挽はいい声を張りあげてほれぼれとうたひだした
 
何といふいい声なんだ
 
あたり一めんにひつそりと
 
その声に何もかもききほれてゐるやうだ
 
その声からだんだん世界は明るくなるやうだ
 
みろ、そのま上に
 
起つたところの青空を
 くさき
草木の葉つぱにぴかぴか光る朝露を
 
一切のものを愛せよ
 
どんなものでもうつくしい
 
わかい木挽はいよいよ声をはりあげて
 
そのいいこゑで
 
太陽を万物の上へよびいだした