伊東静雄「反響」
小さな手帖から


    歸 路

 
 わが歩みにつれてゆれながら
 
 懷中電燈の黄色いちひさな光の輪が
 
 荒れた街道の石ころのうへをにぶくてらす
 
 よるの家路のしんみりした伴侶よと私は思ふ
  よる
 夜ぢゆう風が目覺めて動いてゐる野を
 
 かうしてお前にみちびかれるとき
 
 いつかあはれなわが視力は
 
 やさしくお前の輪の内に囚はれて
 
 もどかしい周圍の闇につぶやくのだ
 
 ――この手の中のともしびは
 
    あゝ僕らの「詩」にそつくりだ
 
    自問にたいして自答して……それつきりの……
 
 光の輪のなかにうかぶ轍は
 
 晝まより一層かげ深くきざまれてあり
 
 妖精めくあざやかな緑いろして
 
 草むらの色はわが通行をささやきあつた




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