閑吟集 小歌

 
  ばいか         りゅうじょ                 うそ   も
 梅花は雨に 柳絮は風に 世はただ嘘に揉まるる
(10)

大意……

梅の花は雨に、柳の綿は風に、
世の中は嘘で、互いに揉もまれ合っている


 



 「柳絮」というのは、柳の花が咲いた後、白い綿毛のある種子が散る様子、またはその種子そのものの事を言います。「雨に」「風に」「ただ嘘に」すべて揉まれる「梅香」と「柳絮」と「世」。美しいイメージですね。嘘の波に揉まれる世相を写し出した秀歌と言えるでしょうか。

 ただ、「世」というのは「世の中」の意味を主とはしますが、源氏物語の昔から「男女の情交」を表す言葉でもあるのです。「世の中」のもう一つの意味に「男女の仲」というのがあるくらいですから。それを考えに入れると、「梅香」と「柳絮」には女性の、「雨」と「風」には男性のイメージがありはしないでしょうか。

 男と女の関わり合いは、ただ「嘘」で互いに揉みあっているだけなのさと、妙にからりとした、乾いたユーモアが感じられるような気がしませんか?


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