閑吟集 小歌

 
  こ  かた                                             くせもの
 来し方より 今の世まで 絶えせぬものは 恋といへる曲者
 
 げに恋は曲者曲者かな
                               さら
 身はさらさらさら さらさらさら 更に恋こそ寝られね
(295)

大意……

はるか昔から今の世まで、絶えないものは恋という曲者。
本当に恋は曲者、曲者だ。
この身は、さらさらさらに、恋のためにまったく眠れない。


 



 私が初めて接した『閑吟集』の歌で、内容の説明は必要としないぐらい、わかりやすい歌です。「さらさらさら」の重なりがリズミカルで、とても好きな歌のひとつです。世阿弥の作とされる謡曲『花月』の一節でもあります。

 「更に恋こそ寝られね」というのが面白いと思います。恋にとりつかれて眠れない、と言っているわけですが、それはどんな情景での事でしょうか。片思いの人を思って、思い悩んで、ひとり布団の中で輾転反側しているのでしょうか。それとも、想う人と一緒にいられる嬉しさに、眠ってなんかいられるわけがないでしょう、と言っているのか。

 どちらでもあり得るわけですが、独り寝の場合であっても、それなりに幸せかもしれないところが、恋の「曲者」たるゆえんかもしれません。


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