閑吟集 小歌

 
    ゆ                 と                     た
 今結た髪が はらりと解けた いかさま心も 誰そに解けた
(274)

大意……

今結ったばかりの髪が、はらりと解けた。
きっと、心も誰かさんに解けた。


 



 髪を結うのも化粧をするのも、女性にとっては常に戦闘準備です。少しでも綺麗に見せたい。綺麗だと思ってもらいたい。そんな想いで髪を結います。だから、結った髪をほどくのは、あくまでプライベートな空間で、そんな姿を見せられるのは、よほど心を許した人だけ。そんな想いで、今しがた、きっちりと結ったはずの髪が、はらりと解けてしまった。

 「いかさま」というのは、この場合インチキとかペテンの意味ではありません。ああそうなのか、という強い納得の意味です。合点がいった、とい事でしょう。髪が解けたのだから、私の心もすっかり解けてしまっているのです。

 さて、どんな状況で髪が解けたのでしょうか。誰も手を触れていないのに、自然と解けてしまったのでしょうか。想う相手の夢を見るのは、相手が自分の事を想っていてくれるからだと、昔の人は考えたようです。だとしたら、自分が心を通わせたいと想っている人が、同じように想ってくれていたとしたら、髪も自然と解けるのかもしれません。

 それとも、今日は来ないと思っていた愛しい人が思いがけず来てくれて、その人の優しい手が、今結ったばかりの髪を解いたのでしょうか。もしそうだったとしたら、髪と一緒に心も解けてしまうのは、当然の事だと思います。


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