大手拓次
『藍色の蟇』

みづのほとりの姿

  
  そよぐ幻影


 
 あなたは ひかりのなかに さうらうとしてよろめく花、
                                                      うを
 あなたは はてしなくくもりゆく こゑのなかの ひとつの魚、
 
 こころを したたらし、
 
 ことばを おぼろに けはひして、
 
 あをく かろがろと ゆめをかさねる。
 
 あなたは みづのうへに うかび ながれつつ
 
 ゆふぐれの とほいしづけさをよぶ。
 
 あなたは すがたのない うみのともしび、
 
 あなたは たえまなく うまれでる 生涯の花しべ、
 
 あなたは みえ、
 
 あなたは かくれ、
 
 あなたは よろよろとして わたしの心のなかに 咲きにほふ。

 
 みづいろの あをいまぼろしの あゆみくるとき、
 
 わたしは そこともなく ただよひ、
 
 ふかぶかとして ゆめにおぼれる。

 
 ふりしきる ささめゆきのやうに
 
 わたしのこころは ながれ ながれて、
 
 ほのぼのと 死のくちびるのうへに たはむれる。

 
 あなたは みちもなくゆきかふ むらむらとしたかげ、
 
 かげは にほやかに もつれ、
 
 かげは やさしく ふきみだれる。