梁塵秘抄 巻第二 法文歌 佛歌

 
 ほとけ つね  い        うつつ
 仏は常に在せども 現ならぬぞあはれなる
      おと   あかつき                み  たま
 人の音せぬ暁に ほのかに夢に見え給ふ
 
(26)

大意……

仏様は私たちのそばにいつもいらっしゃるけれど、現実の世界ではこの眼で見ることは出来ない。
けれど、まだ人が寝静まっている暁の夢の中に、ちらりとお姿をお見せになることがあるよ。


 



 『平家物語』の「祗王・祗女」の段で仏御前が歌った今様です。『梁塵秘抄』を知らなくても、これなら知っている、という方は多いように思います。

 佛歌というのは仏をうたい讃える歌で、これはその中でも代表的なもののひとつでしょう。なにより、「ほのかに」の一句に心を打たれます。夢とうつつを漂う懐かしさやはかなさ、そして静けさ。仏に限らない、何か高貴なものへの深い、そしてはかない憧れを感じさせます。

 口ずさんでいると、何となく心が澄んできて、ぽっと明かりがともるような感じがしないでしょうか。

 すぐ手近にありそうなのに、見ることも触ることもできないもの、でも、それは明け方の夢うつつの中でならかいま見ることが出来る。そして、その見えるとも見えないとも言えないものを一心に追い求める心が、ひどく切なくて、慕わしい気がします。


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