寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




                                              こいしかわ         おおつか
 電話が自働式に変わると同時に所属局が「小石川」から「大塚」
 
に移り、さらにまた番号がもとより三〇〇〇だけ数を増した。なん
                                                              きょ
だか自分のうちが遠い所へ持って行かれたような気がする。居は心
 
を移すというが、心は居を移すとも言われそうである。


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