寺田寅彦『柿の種』
短章 その一



 
   漫  画

 
 新開の日曜附録の一ページに大掃除を題材にした漫画がいろいろ
             おかもといっぺい
出ている中に岡本一平氏のがある。おかっぱ
 
洋装の孫娘がお祖母さんとバタ入れとにほこりがかからないように
 
と大きな鶏籠のようなものをすっぼりかぶせておいたのをおかあさ
 
んが見つけて驚いて籠を引き起こしている図である。おばあさんは
 
おとなしくバタ入れといっしょに小さくなって寵の下に収まって何
 
かむしゃむしゃ食べている。孫娘のほうは平気にほがらかにあちら
 
を向いてはたきをふるっているのである。
 
 ほかにも数々の漫画があるが、どうもただ表面だけふざけていて
 
中味の何もないのが多いようである。一平氏のには、多くの場合に
 
そうであるように、おかしみの底に人情味が流れていて噛みしめる
 
とあわれがにじみ出す。この漫画なども、現代の家庭における老祖
 
母と主婦と孫娘との三角関係を心理的に描写し尽くして余すところ
 
がないような気がする。その真実性の中からおかしみも美しさもあ
 
われも生まれてくるのであろう。
 
 ただ一枚に漫画でもこういうのを朝食時に見ると、その日一日ぐ
 
らいは自分の心情に上に何かしらよい効果を残すように思われる。


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