竹久夢二「青い小径」


    さすらひ


   こひ
 「恋のなやみに
 
 なにがよき
  わす
 忘るゝぞよき」
  にし  くに  うたびと
 西の国の詩人は
      い
 かく言ひき。
 
 われも
 
 かくおもひつゝ
 みどり  の
 緑の野を
 
 ゆきゆけば
  あをぞら
 青空の
 
 はてしらず
 
 さびしさかぎりなし。
 

 やま
 山のはに
  つき    よひ
 月さす宵は
  み       かげ
 身にそふ影の
 
 おきわすれたる
 こゝろ
 心のごとく
 
 はじらひがちに
 
 したがへる。
 

  わす
 忘るゝを
 
 つとめのごとく
  たび
 旅ゆくを
 
 なりはひに
 
 われはさまよへる
  ゆであびと
 猶太人なり。



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