竹久夢二「青い小径」


    丘の家


 わたし  まど
 私の窓から
  をか  いへ
 丘の家の
        まど
 一つの窓を
  こんや わたし
 今夜も私は
        み   い
 ぢつと見て居る。
  をか  いへ
 丘の家には
       ひと   す
 どんな人が住んでゐるのか
 わたし
 私は
  し
 知らない
  ひる                  まどかけ  と
 昼はガランスローズの窓掛を閉ざし
  よる  あを   ひ   み
 夜は青い灯を見る
  よごと わたし       まど   み
 夜毎に私はあの窓を見る
        やくそく      やくそく
 それは約束しない約束のやうに――
  ゆふべ       よひ  はや  とき
 昨夜はまだ宵の早い時
    じかん       すわ    み
 一時間ばかり坐つて見てゐた
  ひ
 灯はつかない。
        ま
 いくら待つてもつかない
  やくそく        やくそく
 約束をしない約束を
  やぶ     こゝろ
 破られた心はいたはるすべもなかつた
          みつかめ    ご ご
 それから三日目の午后
  おか  いへ    そうしき   で
 丘の家から葬式が出た。



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