竹久夢二「夢のふるさと」


   
  草餅


 
 ある日学校へゆく路に
 
 黄な袋がおちてゐた
 
 ひろうてみればこはいかに
         さいふ
 それは財布でありました。
 
 「さあ大変ぢや大変ぢや
  ぜに         たづねびと
 銭をひろへば尋人
  おかみ
 有司へよばれうおゝこはや」
 
 みながはやせばとつおいて
 
 財布を指でさげたまゝ
 
 こりやまあどうしたものだらう。
 
 そこへおりよく先生が
 
 おいでなされて「やれ/\」と
 
 財布をとつてくれました。
 

 
 それから家へかへつたが
 
 どうも財布が気にかゝり
 
 母の情の草餅も
 
 どうまあ咽喉をこすものぞ
 
 食べずに泣いてをりました。