竹久夢二「夢のふるさと」


   
  七つの桃


 
 七人の
 あそびなかま
 遊仲間のそのひとり
 
 水におぼれてながれけむ。
    け し             も
 お芥子の頭が水の面に
 
 うきつしづみつみえかくれ。
 
 「よくも死人をまねたり」と
 
 白痴の忠太は手をたゝく。
              ひし   み
 水にもぐりて菱の実を
 
 とりにゆけるとおもひしが。
 
 人は家より畑より
 
 ただごとならぬけはひにて
 
 はしりて河にあつまりぬ。
 
 人のひとりは水にいり
 
 人のひとりは小舟より。
 
 死骸を岸にだきあげぬ。
 
 「死んだ死んだ」と踊りつゝ
 
 忠太は村をふれあるく。
             さうれん
 白い衣きた葬輦が
 
 暑い日中をしく/\と
  とりべ
 鳥辺の山へいりしかど
 
 そは何事かしらざりき。
 
 ひとりは墓へゆきければ
  なゝ
 七つの指を六つおりて
 
 一つのこしてみたれども
 
 死んでなくなることかいな
 
 いつか墓よりかへりきて
 
 七つの桃をわけようもの。