竹久夢二「夢のふるさと」


   
  禁制の果実


 
 白壁へ
  ざれゑ
 戯絵をかきし科として
 
 くらき土蔵へいれられぬ。
 
 よべどさけべど誰ひとり
 
 小鳥をすくふものもなし。
 
 泣きくたぶれて長持の
  ふた
 蓋をひらけばみもそめぬ
                 ゆめ   か
 「未知の世界」の夢の香に
         たま
 ちいさき霊は身にそはず。
 

 
 窓より夏の日がさせば
 
 国貞ゑがく絵草紙の
 にせむらさき
 「偐紫」の桐の花
 ひかる
 光の君の袖にちる。
 

  ま や
 摩耶の谷間にほろ/\と
  びんが
 頻迦の鳥の声きけば
  しつた たいし
 悉多太子も泣きたまふ。
  ましやう   く も    い
 魔性の蜘蛛の網にまかれ
 しらぬひひめ  そひぶ
 白縫姫と添臥しの
 
 風は白帆の夢をのせ
 
 いつかうと/\ねたさうな。
 

 
 蔵の二階の金網に
 
 赤い夕日がかつとてり
 
 さむれば母の膝まくら。