・オタク達が好んで消費する、拒否を示さない萌えキャラ達
  ――萌えるのに好都合な、幾つかの属性の共通点――

ver.1.10(2006.02/27)


 ・緒言

 ひとつ前のテキストで私は、これまでに出現してきた萌えに関する三つの主要な視点を、粗雑ではあるがレビューしてみた。また最初のテキストで、当サイトが萌えに関して取り扱うオタク対照群がどのような特徴を持った人々なのかを書いておいた(かなり、限定された対象である)。それらを踏まえたうえで、本テキストは“萌え〜!(;´Д`)”となっているときに対象とされやすいキャラクター達が持っている、共通している特徴を挙げていこうと思う。そこを踏まえて、キャラとプレイヤーの間でしばしば成立している或る関係性について考察を進めていきたいと思う。



 ・オタク達が萌えるキャラクター達

 私が女性アニメキャラの世界を垣間見始めたのは1985年前後だったろうか。萌えという言葉を使い始めたのは1997年初頭からだが、女性キャラが多くのオタク達の憧れや脳内恋愛の対象や自慰のタネになっている事をはっきり意識しはじめたのは1990年前後のことだった。あれから15年。属性の組み合わせという考え方のオタク内における浸透や、メディアミックスの一般化等を経ながら、沢山の女性キャラ達がオタクを酔わせ、彼らの金と時間と精力を吸い上げてきた

 では、どんな特徴・属性を持ったキャラクターがオタク達の寵愛を受けてきたのだろう?これまでに人気のあったキャラクターの特徴を全て挙げる事は出来ないが、いつになっても人気の衰えない路線というものは確かに存在する。同級生・セーラームーン・ギャラクシーエンジェルなどの各時代に共通した、萌えキャラ達の持っている一連の特徴をここでは紹介したい。


 ・殆どのキャラクターに共通している特徴

 時代を問わず、萌えの対象となっているキャラクターには最大公約数的特徴がある。まずはそういった共通項から押さえていこう。以下に示す特徴は、萌えがある程度広い範囲で使われるようになった時期はもちろん、少し前の時期(1990年代に入ってから)に熱烈な支持を得てきた女性キャラクター達にも当てはまっていると私は確信する。


 1.目の大きなキャラクター達

 オタク達が好んで消費し、そして主流となった萌えキャラ達は、目が大きい。二等身〜八等身いずれのデフォルメタイプであっても、目が小さいキャラで大人気に至ったキャラは非常に稀である。なかには奇形的なまでに目が大きくなり、目がキラキラの本家本元・少女漫画界のキャラクターよりも目がより大きい者もかなりいる(現在では、少女漫画と少年漫画のキャラにおいて目の大きさの差は縮まっている)。顔面全体に占める目の大きさが40%を超えるようなキャラクターも世の中には存在し、流石に多くのオタクから気持ち悪がられているが、こうした奇形キャラも一部のニッチなファンを魅了している。

 多少の差こそあれ、ウケるキャラの主流路線は、本来あり得ないほど目が大きいキャラなのは間違いない。写実的な目の大きさは最早ウケない。以下に幾例かのキャラを挙げるが、いずれもリアル女性では考えられないほど大きな目で描かれている。実際の成人女性はおろか、赤ちゃんよりも大きな目を持った女性キャラクター達が跳梁跋扈しているのが萌えの世界の過去であり、現在である。たぶん未来もそうだろう。


 2.極端なまでに二極化した、人気のあるボディスタイル

 身体的特徴は大きく二つに分けられる。ひとつは現実の女性においても男性を惹き付け得る、所謂理想的スリーサイズをあてがわれたキャラクター達だ。これは、萌えが広く流布する以前のアニメから存在(例:峰不二子の極端なスタイル等)しており、こういった特徴を持つ女性キャラクターがオタクメディア上で萌えの対象になりやすい事は、なんとなく見当がつくことだろう。

 注意すべきは、オタクメディア上で萌えの対象となりやすい女性キャラはいわゆるナイスバディなキャラクターだけではない、という事である。オタクメディア上で萌えの対象となっているキャラクターには、極端な幼児体型のキャラクターや幼児・児童そのもののキャラクターがかなり混じっている。よくよく考えると、萌えという言葉が流布する前段階から、一部のオタク達は(誰に奨められたわけでもないのに)標準的な体型の女性キャラよりも幼児体型の女性キャラや幼児・児童キャラにやたらと傾倒していたわけで、幼児体型キャラが溢れるようになった1990年代後半以前から、幼児キャラ需要が潜在的にあった可能性が高い。(狭義の)萌えがセクシャルなニュアンスを含み、しかも幼児体型キャラが少なからぬオタク達のそういった願望を牽引している事という事は何を意味しているのか?一般的には性欲の対象になりにくそうにも関わらず、オタク達が幼女キャラをやたら嗜好するという現象は、オタク達のセクシャリティに、何か特別な事情が存在している事を予感させる。ロリコン趣味はAVなどにもそれなりには存在するが、オタク達のロリコンキャラOK比率の高さは他の追随を許さないものがある※1

 なお、彼女達のスリーサイズまたは身体描写は、文字通りの幼児体型(つるぺた)となっている。低身長・陰毛の欠如・大きな目(これは幼児系に限ったものではないが)・発達していない乳房・くびれのないウエスト等が幼児系キャラクターの特徴である。もしかしたら、先の尖った顎なんかも幼女っぽいのかもしれない。さらにキャラクターの幼いイメージを補強する“属性”として、スクール水着やランドセル(っぽいもの)、リボン、ツインテール等々の様々なアクセサリが登場したり、台詞や状況・設定的コンテキストで幼いイメージの強調したりする事で、幼児キャラは一層幼児っぽく見える姿でオタク達の前にあらわれる。参考までに、『はじめてのおるすばん』のさおりちゃんは、

 【サイズ】
  身長:ひくい(133cm)
  体重:かるい(28kg)
  B:ぺったんこ(62cm)
  W:ほそい(50.8cm)
  H:うすい(67cm)

 となっている。こういう感じだと思いこんで頂いて構わない。

 なお、平均的なキャラ体格に関する恋愛ゲームZEROの調査によれば、低年齢キャラは低年齢に、高年齢キャラは高年齢に特化したデザインに偏っているようである。一定の年齢以下のキャラはロリな体型に、一定の年齢以上のキャラは所謂佳い女体型になっていると捉えて構わなそうだ。


 3.穢れのないイメージや純潔に関するこだわり

 このファクターは、古い時代の萌えキャラからずっとみられる傾向で、今に至るまで決して揺らぐことが無い。お姉系や母親系に含まれる少数民族を除き、萌えを牽引するうえで主力となってきたキャラクター達は、須くこのようなイメージをオタク達に抱かせ易いように造られている。オタク界隈の女性キャラ達が最初から意図的にこんな造りになっていたのか、それともいつの間にか定着したスタイルなのか、確かな事は私にもよく判らない。唯一はっきりしているのは、“萌える”という行動のなかでも特にセクシャルなニュアンスが強い場合・場面・状況には、この傾向は決定的なものになるという事である。姫、巫女、低年齢、清楚、女子高生(それも現実のとは違う奴。セーラー服が普通だった頃のイメージ)、処女etc…。ベルダンディも、綾波レイも、咲耶(赤の七号さんリンクすんません)も、朝倉音夢も、穢れや破瓜とは無縁のイメージを抱かせ易い※2。彼女達を見て“やりまくりの女”という第一印象を誤受信するオタクはそういまい。

 ちなみにエロゲー界ではAV界と異なり、淫乱系がいたとしても処女から調教された挙げ句に淫乱になるという展開や、ドラッグ・魔法などといった何らかのイニシエーションを経た後に淫乱に化けるという展開が多い。非処女で経験豊富という属性を引き受けているキャラクターはあくまで少数派に留まっており、AV等に比較するとと狭いニッチしか占めていない。エロゲー界では概して、プレイヤーが手をつけるその瞬間まで萌えキャラは出来るだけ手つかずであるべきされているのはほぼ間違いない。幼児体型・女子高生といったキャラにも関わらず非処女という設定になっていようものなら、大変な反発と不満を招く事になる。例えば下級生2の事例はじめてのおるすばんの事例(リンク先の「はじめてのおるすばん」騒動参照)においては、“実は非処女だったという設定”に対し、純潔性を期待していた多くのオタク達が失望し、これらの非処女キャラと制作者には“裏切り者!”という罵声が浴びせられていた。エロゲーというジャンルの特殊性を差し引いても、あの批判の烈しさは驚くべきものがあったと思う。現代日本のリアル男女交際やAVでは“処女性という記号”にこれほどの執着がみられない事とは好対照をなした格好である。それも、処女性は萌えて萌えて(;´Д`)ハアハアするに適したキャラであるほど、要請されるというのである。AVによくある人気淫乱系とは趣を異にしている。


 4.キャラクターの年齢

 キャラクターの年齢は、比較的若い。アニメや漫画で萌えの対象とされるキャラクターは十代のものが極めて多く、18歳未満のキャラクターの割合が比較的高い。また、年齢が一桁設定の幼女なアニメ・漫画キャラクターが萌えに供される事がしばしばある(例:これこれ)。年齢よりも見た目の年齢のほうが重要かもしれないが、オタクは往々にして設定や属性を愛する為(データベース消費)、キャラが何歳なのかという情報を全く無視してかかることはできない。

 一方コンシューマゲームの世界でも、アニメ・漫画の萌えキャラと殆ど同じ傾向がみられている。また、エロゲー界では年齢設定的には15〜24歳の範囲内に殆どのキャラが分布している。少しデータは古いが、恋愛ゲームZEROの2001年1月の調査では17歳・16歳のキャラクターが多くを占めており、14〜22歳までのなかに殆どのキャラクターが含まれているという結果になっていた。エロゲーにおける年齢設定の背景には当局への遠慮が存在する為、本当はもっと幼い年齢設定が期待されている可能性も否定出来ない。実際エロ同人界では、見た目の幼女っぷりがしっかりと反映された年齢設定のオリジナルキャラが結構存在している。






  ・上記の普遍的特徴に加えて――キャラ属性のメインストリーム

 オタク達が萌えの対象として消費してきたキャラクターが、前述のような特徴を持っている事に異論を挟む余地は殆ど無い。それを踏まえた上で、これまでの萌えの歴史の中で登場した幾つかの属性に着目してみようと思う。それらはひとつの共通点を持っているように思えるのだ。以下に、キャラ属性のなかでメインストリームともいうべき流れを形成した幾つかの属性をピックアップしてみる。オタク界隈に詳しい人なら、すぐに偏りの感じられる列挙と気づいて下さるだろうが、挙げていない属性については後続テキストで補足する。また、このような偏りのある列挙を行った理由についても後で説明する。


 ・妹系

 消費者たるオタク達よりも低い年齢で、オタクに対してメディアの向こう側から「お兄ちゃん」と呼んでくれる神々しい存在、とされている。妹として概ね振る舞うが、殆どの場合は義妹が多く、近親相姦に抵触しないつくりになっている※3。兄を慕うことこそあれ、兄を疎んじるような事のない、一途な妹が主として登場する。ツンデレ妹も最近は増えているが、ツンツンの裏側にはベタベタな設定が待っている。

 幾つかの例:
 シスタープリンセスのみなさま
 涼宮茜(君が望む永遠)
 伊藤 乃絵美(With You)


 ・病弱系

 妹系と同じく、長い歴史を持ったキャラクター。同級生2の桜子以降も、キャラ数こそは少ないものの、何人かの致命的なキャラ達が何人もの萌えオタク達の心を鷲掴みにして、そのまま握りつぶしたものである。病弱という属性はコンテキストの中に「死」という要素を盛り込みやすいので、「お涙頂戴ストーリー」を簡単に構築しやすいという特徴も持っている。このため、属性単体というよりはその他のデータベース(或いはデータベースと呼びがたい何か)との複合が重要となってくる。


 幾つかの例:
 杉本桜子(同級生2)
 美坂栞(Kanon)
 藤堂加奈(加奈〜いもうと〜)


 ・メイド系

 “ご奉仕”“ご主人様”という概念がいけないのか、ストレートな性描写の多いエロゲー界隈に特に認められる属性だった。しかし今では“オタクはメイドが好き”という憶見がマスメディアを通してばらまかれており、“メディアが指摘するところの萌え”の代表例扱いされている。勿論、実際に人気のある萌えキャラを多数含んでいるし、今なお強い支持を受けている属性である。キーワードは、無償奉仕・無抵抗・あのコスチュームあたりだろうか。


 幾つかの例:
 琴乃宮雪(水月)
 巫淨翡翠(月姫)
 アイシャ ファーファリス(殻の中の小鳥)←ネット上にもう画像が見つからない!


 ・つるぺた幼女系:

 オタク向けの萌えフィギュア・エロゲーコーナーに一度行って頂ければすぐ分かるだろうが、現在この属性は陳腐なまでに氾濫している。異様なまでの人気を誇り、アニメ・漫画・ゲームのあらゆる分野に幼女系キャラが登場している。同人界隈の需要をも含むと、つるぺた幼女系はオタクにとって強力な性的魅力を提供していると考えられる。そしてこの属性は世間受けが非常に悪く、しばしばメディアに登場して悪者扱いされている

 幾つかの例:
 木之本さくら(カードキャプターさくら)
 観月しおり(はじめてのおるすばん)
 柏木初音(痕)


 ・幼馴染み

 幼馴染みもまた、古典的かつ重要な属性として挙げておこう。主人公とは何でも言い合える仲で、朝起こしてくれたり世話を焼いてくれたり。何でもしてくれて、しかも主人公が何でも言えるような関係で描写される事が多い。案外義妹やメイドに近い関係性が描写されているような気がする。そういえば、犬みたいに従順なさまを指す“犬チック”という言葉を贈られたのも、幼なじみとしての王道を行っていた神岸あかりだった事を思い出した。面白い事に、主人公に対して一方的に好意を持っていて、主人公はあんまりそれを気にしていないという構図が好まれる事が多い。この場合、ツンデレなのは主人公でありオタク自身である。

 幾つかの例:
 神岸あかり(To heart)
 藤枝保奈美(月は東に日は西に)
 ミスマル・ユリカ(機動戦艦ナデシコ) 
                                                              →幼なじみ占い。こんなのもあるんですね



 ・ロボット系

 例が少ないので挙げるべきか迷ったが、萌えオタのなかでも特に濃い人々が沢山足下を掬われた属性。マルチは登場当時大旋風を巻き起こしていたが、やがてはすっかりうち捨てられた。消費者たるオタクと、消費される側たるキャラとの関係を代表する一幕である。また、ロボットと同一と言うにはかなり無理があるものの、OSたん達も共通するものを持っていると言えるかもしれない。なお、メイドロボは多くのオタク達が夢見るマシンである。


 幾つかの例:
 マルチ(To Heart)
 イルファ(To Heat2)
 ちぃ(ちょびっツ)



 ・以上のようなキャラを挙げたのは

 こんな、少し偏りの感じられる二次元属性をわざわざ紹介したのは何故か。最近流行りのお姉さん系やツンデレを持ってきていないのは何故か。なぜなら、上に挙げた属性のキャラ達が「オタクから見て、何でも言うことを聞いてくれそうなキャラ」「拒否を示さなそうなキャラ」「突き放したりしなさそうなキャラ」だからである。オタクが好んで消費する萌えキャラというのが、上に挙げた属性が代表するような、「期待を裏切らない・受け入れてくれる・従順である・意のままにすることが出来る・拒否しない」キャラがやたら多い事をはっきり示したかったのだ。

 妹キャラにしても病弱系キャラにしても、彼女達は身体的にも意志の強さも、いかにも弱そうなステロタイプを背負っている。ストーリーの中で強さを見せることもある(お約束!)彼女達だが、その強さはオタクを最終的に突き放す類のものでは決してないし、その強さも最終的にはプレイヤー・主人公によって補完されなければならない不完全なものがデフォルトである。現実世界の妹・病弱娘が従順とは限らないという現実とは関係なく、オタク達が消費する妹・病弱キャラ達は『無抵抗っぽい・従順っぽい』ものと先祖代々決まっている。ツンデレだろうが何だろうが、最終的には“オタクに屈して(歓喜か嘆きの)涙を流す”ように造られていて、そこを外すと売れる萌えキャラに仕上がりにくい。例えばツンデレ妹キャラの涼宮茜も、最終的にはプレイヤーにベタベタなわけで、人気の集まりがちな妹系・病弱系は、最後には主人公に折れる(それも折れまくる。ツンデレだ!)と考えて殆ど差し支えないと思う。

 メイドやロボットの女性キャラ達も同様に、無抵抗で従順な異性像を提供するのに適している。どちらもマスターには無抵抗で何でもしてくれるという印象を持った属性のため、そういった習性のキャラクターを作成するには非常に好都合だ。また、生殺与奪も売り飛ばすも自由という点でも優れており、特にエロゲーや同人の世界ではメイドやロボ達を玩具として玩ぶ作品がわんさと溢れている。彼女達はプレイヤーの願望を余すところなく受け入れ、不要になれば即座に捨てられる事すら引き受けてくれる※6。文句一つ言わない彼女達の有様を、一部のオタクは“無償の愛”と呼びたがる事があるが、はてさて…。

 幼女属性や幼なじみ属性にしても、文字通りオタク達の意のままになるような関係や何でも受け入れてくれる関係を描写するには好都合だ。幼女キャラ達は、どんなにひ弱な男性にも逆らえない存在なので劣等感の強いオタクでも抵抗無く導入できる。しかも現実の女性よりも素直で『ピュア』存在として描きやすい。まだ誰の手もついていなくて、大きなお友達の言うことを何でも聞きがちなステロタイプを背負っているからこそ、ここまでの隆盛を極めているのが幼女属性ではないだろうか※4。一方、幼なじみ達はオタクのほうから好意を示さなくても(まるで母親のように)一方的に愛情を注いでくれる描き方をしやすいという特典がついている。主人公たるオタクがぶきっちょだろうが見向きもしなかろうが、献身的に尽くすor仲良くしてくれる幼なじみ達。彼女達もまた、オタク達を拒否せず受容し、決して裏切らず、無垢で、最終的にはどうにでも出来るような存在として描写されている。

 以上のように、幼女・メイド・幼なじみ・病弱といったキャラクター達は“拒否せず何でも受け入れてくれて、抵抗不能で、従順”な性質を帯びているがゆえに、オタク達のありとあらゆる願望を一方向的に投射されやすい造りをしている。身も蓋もない事を言えば、好きなように玩びやすい・エロ消費として都合が良い属性と言ってしまってもいいのかもしれない。元々エロゲー・同人などにおいては、作品の文脈レベルにおいても“どうぞ食べちゃってください”なコンテキストづくりが顕著だが、仮に作品中にそういったコンテキストが無く、(オタクや男性キャラからの)侵襲的展開が微塵も描かれていない作品であっても、諸々の脆弱属性が埋め込まれてさえいれば、オタク達は脳内でそのキャラ達に思いつく限りの願望を一方向的に投射しやすくなる。東浩紀氏の“データベース消費”に即した表現をするなら、『オタク達はこれら従順属性などの好都合なデータベース群で構成されたキャラクターのシミュラークル※5を、脳内で速やかに組み替えて自分に適した形で(;´Д`)ハアハアすることが可能』と言い換えることも出来るかもしれない。

 性的に無防備な幼女を保護して自己陶酔するも良し、メイドを思うがままに陵辱・虐待するも良し。オタク個々が属性等のデータベースから生起させるシミュラークル次第で、千差万別の萌えの有り様が脳内形成され得るだろう。個々のオタク達が萌え萌えなシミュラークルを脳内で形成させるにあたり、幼女・メイド等の従順な属性は“安心してシミュラークルを形成できる”“ご都合主義かもしれないけど、緊張せず、それほど想像力を働かせずにある種のステロタイプな(;´Д`)ハアハアを形成できる”鍵データとして、今なお重要な役割を果たしていると私は考える。もちろんそれだけではよく萌えるキャラにはなり得ないが、メイド・幼女・幼なじみなどといった属性が、それ単体でもオタク達に定型的なシュミラークルのテンプレートを呈示し得るというところまでは認めてしまってもいいのではないかと思う(だからこそ、東氏のデータベース消費という考え方は萌えの分析にかなりの威力を持っているとも思うのだ)




 ・おわりに

 このテキストは、メイドや幼なじみなどの属性が受ける背景として、それらの属性が“拒否せず何でも受け入れてくれて、抵抗不能で、従順な”性質を持っているという一点で共通しているという事、それらが大いに人気を博して現在でもまだまだ現役の属性であるという事を指摘したに過ぎない。これだけでは、惹起されて然るべき幾つかの疑問点をうやむやにしたままで終わってしまう。本テキスト中でも少し触れた、

1.台頭しているツンデレやお姉さん属性はこの場合どう説明するのか?
とか、
2.何故、従順で拒否を示さないキャラがオタク達に好んで消費されるのか?
といった疑問には答えたことにはなっていないと思う。

 1.については“脳内補完における、萌えキャラとオタクとの一方向的関係”で
 2.についてはオタクに共通する或る心性について(仮称)で関連事項を述べてみたい。






【※1他の追随を許さないものがある。】

 確かにAVではロリコンが少ない。仮にあったとしても、第二次性徴すら無いような幼女はそれほど対象とはなっていない…と書いてみて少し青ざめた。ビデ倫 ・JEJAなどといった機構がなければどうなのか?法律という枠組みが無い時どうなのか?本当に、第二次性徴すら無い幼女を性欲の対象とする男性は少ないのか?このような趣向が男性にもっと普遍的にみられる特徴である可能性・そこまでいかなくてもある程度の確率でオタク以外にも広くみられる可能性はあるのだろうか?それは、私にも全く分からない事だ。

 欧米などでは、幼女を性欲の対象にする事に対して非常に厳格である一方、日本では信じられないほど無惨で残虐な幼女嬲りが地下潜伏しているという。もし、もっと広い範囲の日本男性が幼女嗜好を隠し持っていると証明されてしまおうもんなら、このテキストは大幅な改変を迫られる事になってしまう。





 【※2穢れや破瓜とは無縁のイメージを抱かせ易い】

 前述した幼児体型・幼児コンテキスト複合体もまた、穢れや破瓜とは無縁のイメージを抱かせ易い事を思い出した読者もいらっしゃるかもしれない。幼児体型は、余程の事がない限り純潔を見る者にイメージさせる副次的効果を有している。とはいうものの、ただ単に純潔さをオタクに呈示して「この娘にお手つきするのはあなたが最初ですよ〜」とアピールする為に、わざわざ色気のない幼女体型が要請されるとはとても考えられない。性欲がことに重要視されるエロゲー・エロ漫画・エロ同人界隈で純潔の要請があったとて、性欲惹起の為の純潔ならば、女子高生や女子中学生ぐらいの身体的特徴に、純潔記号をまぶせば十分の筈である(リヤル女性の性体験年齢が最近低下しているといっても)。このため、幼女がウケる理由は純潔希求だけでは説明がつかないというのが私の考えだ。プラスαがある。





 【※3近親相姦に抵触しないつくりになっている。】

  或るblogさん(忘れてしまった!御免)で、『非モテは異性を見る時に、家族・恋人はあってもその中間的関係(女友達とか)が無いから妹萌えが発生するのでは?』という指摘があった。本論とは少し外れるが、面白い考え方だと思う。この考え方を援用すると、幼なじみが多いあたりについても色んな事が言える可能性もあるかもしれない。

 ん?そうなると、志保萌えは?あのキャラはモロ女友達女友達した女友達だ。まあ志保萌え少ないし、別にこの論の対象から志保萌えオタクが外れていても別に何の問題もないか。一つの論で全てをカバーしようとしなきゃいいんだし。





 【※4幼女属性ではないだろうか。】

  『はじめてのおるすばん』のような極端な例が跋扈している状況下では、こういった文脈で幼女属性を語ることができるのは既に過去のこととなっているきらいがある。幼女属性が真に無垢・受け入れやすい・従順・拒否しないといったファクターを揃えた記号として完全に機能していたのは、もしかしたら2000年頃までの話なのかもしれない。はじめてのおるすばん以降、はじめっから淫乱な幼女系キャラクターも出没するようになったからだ。

 しかし、同人レベルでは淫乱幼女がもっと前から描かれていたし、はじるす事件でも分かるように、純潔性へのこだわりが消えたわけではない。単に“満足いくまでエロいなら最初からエロい幼女もアリでしょ?”という選択肢が加わったに過ぎず、幼女属性を持ったキャラクターに対して純潔や処女性を期待する雰囲気は、2005年になってもあまり変化していない。また、従順・受け入れやすい・拒否しないといった特性の需要もあまり変化していない。





 【※5キャラクターのシミュラークル】
 
 このシミュラークルという言葉の意味がわからん、という人は、とりあえずこのテキストの中では“各自各様の脳内補完”という言葉をあてがっておけば大体近似出来ます。え?脳内補完も分からない?それはググって調べて下さい。

 シミュラークル、なんて言葉をオタク仲間が読む可能性の高いこのテキストにに使うのはあまり気乗りしないが、一番しっくりするのが東浩紀氏が“データベース消費”の話の中で用られた際のこの言葉だったので使用した。概略が知りたい方はこちらを参照して頂き、それじゃ全然不満なしっかり者さんは、東氏の著作やそのほか難しい本を参照してください。





 【※6引き受けてくれる。】

 たまに、彼女達が主人公に抵抗する有様が描写される作品もあるが、常に最終的屈服・最終的受容を前提とした抵抗であり、スパイスとしてのお約束でしかない。最終的に御主人様の思いのままというのが不文律となっている。