閑吟集 小歌

 
 
 あまり言葉のかけたさに あれ見さいなう 空行く雲の早さよ
(235)

大意……

言葉をかけたいと思い余って。
あれ、ごらんなさい。空を行く雲足のなんて早いこと。


 



 情けないけれど、とてもかわいい歌だと思います。思う人に声もかけられない。本当は“好きです”と言いたいのに、どうしても言えなくて。それでも、勇気をふるって声をかけては見たら、口を突いて出たのが「あれ、ごらんなさい。空を行く雲足がなんて早いんでしょう」だなんて。

 片思いの初恋の思い出には、この情景と似通ったものが有りはしないでしょうか。へたに思いを打ち明けて、笑われたらどうしよう。拒絶されたらもっといやだ。そんな想いが頭をよぎって、好きという代わりに、言っても言わなくてもよいような事を、とっさに口にしたりしたことはありませんか。

 それでも、声をかけられただけ、まだ良いのかもしれません。会っても声をかけられなかった頃に比べれば、先へ発展する可能性もあるわけですから。


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