数学の猫踏んじゃった

「はじめに」に代えて

 70歳を過ぎてから、僕の人生の事情から「宇宙」を勉強することになり、放送大学で学びをはじめたのですが、足を踏み入れてみるとことはそう簡単ではありません。まず、宇宙を理解するためには「物理の素養」がなければなりません。物理にはやたら数式が出てきます。これはかなり高いハードルとは思いましたが、退くわけにはいきません。こうしたことから、意を決して、数学から勉強を始めることにしました。ところが、いくら初歩からと言っても、中学の数学から分かってないではありませんか。分数計算のところで訳が分からなくなってしまい、もう頭がくらくらするだけです。こんなことも分かっていなかったのかと思うと情けなくて、これは負けていられないということで、鉢巻を締め直すのですがいけません。何かいい方法がないかなあと思っているときに、講義の中で、「角の三等分問題」というのが話題としてありました。興味をそそられましたので、これを気晴らしのつもりで取り掛かりました。問題は、「与えられた角を三等分せよ」と言う難問題でもなんでもないように思えるものですが、これを定規とコンパスだけで作図しなければなりません。なんとこれが意外と楽しいのです。定義や規則が分かっていなくても、定規を引きコンパスを廻していればいいわけです。これはちょうど、ピアノの練習をしている子供が、よく緊張の頂点に達しますと、突然、「タタタンタンタン」と弾きはじめます。するとスカッとしホットするわけです。まさに「角の三等分」これは、数学の「猫ふんじゃった」です。

 最初は数学の勉強のときに、定規とコンパスを脇において、合間あいまにやっていたのですが、次第に定規を持つ時間が多くなってきました。本領は数学を克服することなので、正直なところ後ろめたい思いでやっていたのですが、あるとき、閃きが来て先が見えて来そうです。「何かありそうだぞ。」こうなるともう止められません。一気にのめり込んでしまいました。できそうで消えていく。新たな可能性が見えてきてまた転覆する。こんなことが数か月続いて、徐々に自分でも納得のいくものが見えてきました。

 あるとき(2008年頃)、自分では「できた」と思って、高校の数学の先生に作図を見ていただきました。基本的には今僕が持っている作図と変わっていないのですが、先生はただ頭を捻っているだけでした。今度は知人を通して渡りをつけてもらって大学の先生に質問することができました。メールでのやり取りでしたが、返ってきたのはさんざんで、ほとんど問答無用、門前払い、倍角の法則とか何とか言われて撥ね付けられた格好となりました。インターネットなどで調べましたら、専門家の間では「角の3等分屋」と言われていて嫌われ者であることがわかりました。また、友人が矢野健太郎の本「角の三等分」をわざわざプレゼントしてくれて、これを読むように勧めてくれました。これによると、三等分屋がいかに専門家を煩わせているかが書かれてあって、専門家に到達することすら至難のようです。すると僕もその部類に属するということです。これがトラウマとなって、以後、二度と専門家には見てもらおうと思わなくなりました。そうならそうで自分でやるしかありません。証明とはどういうものかも分からないまま、「三角比」以外の角(π)の比例関係を探求することにしました。

 数学は「数学再入門」からはじめて「初歩からの数学」、「微分積分」、続いて「入門線型代数」を勉強中ですが、再試験となりました。「代数の考え方」をとったのは、判断が甘すぎました。これはかなり高度な数学知識を前提としています。科学一般は「自然を理解するために」、「科学的探求の方法」、「エネルギー学の基礎」、物理は「物理の世界」から、今「力と運動の物理」、宇宙は「宇宙観の歴史と科学」、「宇宙を読み解く」、「進化する宇宙」を勉強しました。こうした知識に触発されて、僕は僕なりの考えをまとめることにしました。始めたのは「角の三等分問題」です。それは本のページを一枚一枚めくっていくようでした。ほとんど直感によって思索をたどってきましたが、気づいたら、思いは宇宙へと広がっていました。こんな楽し時間を与えてくださった放送大学に心から感謝の気持ちでいっぱいです。(2014.3.22)
大宮学習センター 新垣重夫

  

目  次


1、比を求めて
2、比は必ずある
3、直線から曲線へ
4、曲線での試行錯誤
5、ダイヤモンド・ミステリー
6、角の3等分不可能論
7、(-a)を考える
8、2次元スケール
9、スケールの移動
10、定規とコンパスによる作図
11、2等分法の拡張
12、径と角の関係
13、座標上の線と弧
14、4角形の中の円
15、πの凍結と解凍
16、解πの例題
17、曲率変化の一般解
18、経度法

 19、光の反射から
 20、反射による作図
 21、三日月法と経度法
 22、角の補正
 23、あらゆる角度に向かって
 24、円座標の考え方
 25、経度法と複素数
 26、等分の原理
 27、角の量子的性質
 28、孤の広がりと座標
 29、孤高の円
 30、7角形の作図
 31、自然は6角形
 32、波を考える
 33、波の種
 34、球面波を考える
 35、波の計算
 36、宇宙への思い〜「おわり」に代えて〜

     

【次頁】